展示室は13あり、テーマごとに分かれているが、テーマの共通性はナチュラリスム。
自然との共生で体の一部が木に変形するなど、人間と人類以外の自然が一体化する。
ここでは、13の展示室の中から、興味があった部分だけをとりあげた。
テーマ:キメラ(半人半獣)
キメラ (chimera) とは、同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている個体のこと。
「異質同体」である。例:鳥の羽や角が生えた姿。ギリシア神話に登場するライオン・
山羊・蛇が一体化したキメイラが元になった語。
(私が好きな彫刻家三沢厚彦も最近はキメラ制作に凝っている)
マックス・エルンスト「キメラ Chimere」1928年
女性と鳥が一体化。優雅で美しい。ブルーの部分は鳥の影が残っている?

シュザンヌ・ヴァン・ダム (Suzanne Van Damme)「鳥のカップル 」1944年。
まぁ、なんて気取った奥様。足元が鳥さん。

テーマ:戦争
本展覧会の広告メイン・ビジュアルに使われているマックス・エルンストの絵。
「炉辺の天使」1937年
天使というよりモンスター。炉辺、家の暖炉の所にいたけれど、外に飛び出してきた。
踊っているかのよう。靴には棘、手は鋏、怖ろしい顔。よく見ると顔が緩んで
いるような。。戦争がやってくるということを示す絵。
スペイン内戦で共和党のフランコが台頭してきたときのヨーロッパの混乱
をこの絵で批判。政治的メッセージの絵。

マックス・エルンストはドイツ人。ボン大学で哲学を学び、絵はアマチュア画家の父
に習った程度。キリコに憧れ、アルプと共にダダのグループを作る。1922年パリに
移住。シュルレアリスム運動に参加。ジャコメッティと親交を深め彫刻を始める。
第二次大戦争中はフランス軍に敵性芸術家として逮捕されたのでアメリカに亡命。
富豪のペギー・グッゲンハイムと結婚。アメリカにシュルレアリスムを広めた。
今回の展覧会で注目作品が一番多かったのは、エルンスト、次がダリだと思う。
「炉辺の天使」の前は人だかりで写真が撮れなかったし、エルンストの彫刻も
写真を撮る人が大勢いた。光って作品は反射するし、人は映り込むけれど、
彫刻「カプリコン」(やぎ座)山羊の王と女王。王は犬を膝に。

茶と黒の暗いトーン、歪んだ顔、魚や海の生物、意味不明と思ったら、
日本人、池田龍雄「禽獣記」1963年

池田について何も知らなったので、調べた。1928年佐賀県生まれ。特攻隊だったが
飛ばずに終戦。多摩美大でアンフォルメル運動やダリに影響を受ける。
朝鮮戦争を契機として社会運動にめざめ、禽獣記では動物をモチーフに生と死、
不安感を描く。
テーマ:ルイス・キャロル
ルイス・キャロルの「不思議の国アリス」をイメージした作品。
ルネ・マグリット
「不思議の国のアリス」1946 年

テーマ:母なるもの
サルヴァドール・ダリ『蜂蜜は血よりも甘い』のための習作 1926年

ダリの絵というとグニャっと曲がった時計が思い浮かぶがそれ以前23才の作品。
淡い水色とグレーの対比が美しい海岸、打ち上げられたものは首無し裸体と
男の首から上部分。なぜこんなに大きいのだろう?
イヴ・タンギー「風」1928年
ブルトンはタンギーの作品を気に入っていて、紹介文をつけたりした。
海辺の強い風は、あらゆるものを巻き込んでいる。

テーマ:Mlusine(半身美女・半身蛇)
Mlusineはフランスの伝承に出てくる水の精霊で、上半身美女で下半身が蛇。
メレット・オッペンハイム「ダフネとアポロン」1943年
オッペンハイムは女性シュルレアリスム作家、マン・レイの写真モデルとして有名だった。

ポール・デルヴォー「曙 」
デルヴォーはベルギー人。幻想的、官能的な絵は日本でも人気で、時々「デルヴォー展」
が開かれている。

テーマ:森
マックス・エルンスト「大きな森」1925年
エルンストは、カンヴァスに塗られた絵具をパレットナイフで削り取り、下にあるものの質感
を浮かび上がらせるグラッタージュという技法を用いて「森」シリーズ制作した。(東京の
西洋美術館には「石化した森」という作品がある)森はドイツ・ロマン派の風景画でわかる
ように神秘的な雰囲気なのだが、エルンストはグラッタージュによって内面世界を加えた。

カスパー・ダービッド・フリードリッヒ(1774~1840)
上で森はドイツ、ロマン派の風景画に出てくることが多いと書いたが、フリードリッヒは、
その代表。これもシュルレアリスムの範疇なのだろうか。

森ということで、フクロウの登場。巣箱ならぬ木箱に入ったフクロウが高い所にいた。
ジョゼフ・コーネル「梟ボックス」1946年 白フクロウ
コーネルはアメリカ人。自作の箱にいろいろなものを閉じ込める手法で有名な人。
千葉の川村美術館にも作品がある。

テーマ:夜への讃歌
部屋から部屋へと展示室が続いていたが、ここで暗い通路になり、両側に写真家
ブラッサイの「夜のパリ」シリーズ(1930-1934)が並ぶ。
ジョアン・ミロ「月に吠える犬」1926年 ミロらしい可愛い作品。

カタログの裏表紙に使われているルネ・マグリットの「光の帝国」1954年
下半分の建物部分は夜の絵だが、上半分の空は昼間という奇妙な絵。
マグリットはグラフィックの出身なので、主題は難解でも絵がわかりやすい。

テーマ:エロスの涙
この分野は得意の画家が多いので展示物が多い。
ハンス・ベルメール(1902-1975)制作の裸の人形は変にリアルで気色悪し。
「これより先の展示室は不快に感じる人もいるので、大丈夫な人だけ入ってください」
というメッセージがついた奥の小部屋があった。もちろん入らず
マン・レイ「アングルのヴァイオリン」1924年
モデルにアングルの「ヴァルパイソンの浴女」の格好をさせた写真にヴァイオリンの
f孔を描き込んだ作品。写真なので、30×24くらいの小ささ。

テーマ:宇宙
最後の部屋は「宇宙」コスモス。
ルフィーノ・タマヨ Cuerpos celetes 天体 1946年
タマヨはメキシコ人、アメリカの先住民族マヤ族の流れのサポテク系。
メキシコの美術学校卒、ニューヨークやパリでも暮らす。マヤの伝統を
重んじる作品をキュビズムやシュルレアリスムで描く。日本でも個展があった
この絵も右端にいるマヤ族の男が星が輝く天体を見ている。
1950年、パリでの初個展のカタログを見たブルトンは、この絵をマヤ文明と
西洋文明の交流と褒めた。40年代に南アメリカやアフリカを旅したブレトンは
これらの地域の民族が考えている独自のコスモスに興味を持っていた。

★この大規模な展覧会のキューレーターは、ディディエ・オッティンガーと
マリー・サレのお二人です。
この記事へのコメント
てんてん
今日も来ましたよ♪
よしあきギャラリー
日本人の作品を見たいものです。
Inatimy
「不思議の国のアリス」を描いたのは、René Magritte ルネ・マグリットです^^。
あとでゆっくりコメント書きますね。
YAP
斬新すぎる何を表現しているのか説明を聞いてもわからないようなものより、これくらいちゃんと形がある絵だと、おもしろさを感じます。
おと
ルネ・マグリットは、やはり、私にも分かりやすくて好きです。
「アングルのヴァイオリン」、見たことがある気がするんですが、本物じゃなくって、何かの記事で見たのかも。。
taeko
taeko
意識高い系の作品は、日本で人気が出なくても、こういう所では評価されますね。草間弥生作品を初めて見たのは、30年前のポンピドゥでした。
taeko
taeko
yk2
それにしてもtaekoねーさんといなちゃんのこのリズムはSS-blogでなくなっても健在ですねぇ(^^。「taekoが丸投げいなちゃん調べる」って、役割は真反対(笑)ですけど「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる~♪」って唄の節と、東京国立近代美術館収蔵の桂ユキ作『ゴンベとカラス』のユーモラスな絵が思い出されます(笑)。
taeko
マグリットは、最初、広告などグラフィックの仕事をしていたので、色が綺麗で形がわかりやすい、そこにユーモアが加わり楽しめますね。
アングルのヴァイオリンは、今見てもユニークだから当時としてはセンセーショナルだったでしょう。一度見たら、忘れられないから、「どっかで見た」になりますよね。
taeko
<「taekoが丸投げいなちゃん調べる」> → 真実をついてて上手いですね~。「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる~♪」桂ユキの絵は、両者の目のにらみ合いが何とも言えず、、おかしかったです。
「taekoが書く yk2さん補完する」というパターンもあります。
私が不十分なまま書いても、2人の良いお友達に恵まれて、良い記事になっている、ということで、パンパン、、おあともよろしいようで。
engrid
アングルのヴァイオリンに惹かれています
taeko
SSブログでは楽しいお付き合いをさせていただいて、たくさん学ばせていただきました。だから、なくなるのは残念ですが、ちょっと面倒でもNiceがないシステムのほうが誠実でいいと思います。
yk2さんとは、20年のお付き合いなので、言いたい放題。Inatimyさんとも10年以上。
engridさんの詩情あふれる写真、一言しかない言葉が響いてました。seesaaになってから、長い文になりましたね。あ、読んだけど、コメント書かなかったような。。
Inatimy
「不思議の国のアリス」は2010年にブリュッセルにあるマグリット美術館を訪れた時に見てポストカードを購入したので記憶に残ってたという。「光の帝国」も二つあったんだったかな。1954年のは縦長だけど、1961年のは横長。
記事で絵画を拝見してるとシュールレアリズムって一体何?って再び思ってしまいました。デルヴォーやカスパー・ダービッド・フリードリッヒまで入るの?って。フリードリッヒのこの絵って、検索するとタイトル”Frühschnee”で直訳は早雪。普通に木々や地面が薄ら雪化粧してるだけなんですもの・・・。私には遥か前のヒエロニムス・ボスの方がよっぽどそれっぽい感じに思えます^^;。
コザック
ポール・デルヴォーはシュルレアリスムなんですね。
好きなので人気があると聞いてなんだか気分いいです(^^)
官能的な女性と鉄道のイメージなので拡大して汽車がないか探しちゃいました☆
ukkari-k(うりくま)
このバージョンの「光の帝国」、ポスターやノートを持って
いました。フリードリヒが何故この範疇に入ってしまったの
かキュレーターの方に聞きたいですね。澁澤龍彦が喜びそう
なベルメールの球体関節人形の部屋も興味津々ですが、トラ
ウマになったり抗議する人もいそうなので、見ない選択もで
きるのは良いですね。R-18部屋みたいな扱い?(^^)。
taeko
昔の方々のコメントが面白く、ついつい時間をかけて読んで笑ってました。5月15日に「先日は遊びにきていただきありがとうございました、、」でした。
plotさんつながりで、オフ会でIkesanに会って、Ikesanのお友達で記事にコメントを残してらっしゃる同じくオランダ在のInatimyさん、初めは明快でさっぱりした口調から男の人かと思ってました。
2007年頃は、私も絵画鑑賞の経験値が少なく、Inatimyさんもコメントに「セザンヌはリンゴの絵を描いてる人」お互いブログのおかげで成長しましたね。
ルイス・キャロルのアリスは、マグリット美術館でご覧になったんですね。yk2さんも国立新美術館で、と覚えてらっしゃるし、フォローしていただけてよかったです。「光の帝国」も縦長と横長があったとは。
森つながりで展示したのかもしれないけど、フリードリッヒはシュルレアリスム宣言と年代も違いすぎ。100年も前。それが気になって写真を撮りました。100年前と年代を限定しないなら、ヒエロニムス・ボスがシュールに関しては元祖って私も思いました。(フリードリッヒの絵のタイトル、ありがとうございます。本文にいれておきます。フリードリッヒは、好きな画家。もっと良い絵があるのに。。)
taeko
ここでの絵のように人魚が地上に4人もいるとか、鉄道の駅のホームのような所に細い一人用の簡易ベッドがあって裸の女性が寝てるなんて、実際にありえないでしょ。だから超現実で、シュルレアリスム。拡大しても見つからないから、心の目で見てね(笑)
そう、鉄道とか駅構内に人物という絵、多いですよね。私はハリーポッターの駅が思い浮かぶけど。
taeko
見応えがありました。2時間も見てました。
「光の帝国」、なんか気になる作品ですよね。
フリードリヒはドイツのロマン派で年代も違うのに、森、繋がりだけじゃ安直だから、何か潜んでる?
さすが、うりっくまさん、澁澤龍彦を思い浮かべてくださった。日本でシュルレアリストといえば、サド侯爵夫人の訳で澁澤はクローズアップされてましたね。数か月前に「フローラ逍遥」という澁澤が選んだ25枚の花の絵に文章を添えたエッセイ集(もとは雑誌『太陽』への掲載)を読んだのですが、尖った所がなく、実に優しく花を見つめている文でした。澁澤観が変わりました。関節人形で、昔、四谷シモンという人形師がいたことを思い出し、調べたら、代表作のひとつにマグリットが描く「山高帽の男」がありました。
そう、見ない選択、奥の部屋へは、カーテンを開けて入るのでした。
サンフランシスコ人