
ポンピドゥセンターは、20世紀以降のものを展示している国立の現代美術館。
現代美術館の愛好家だったポンピドゥ大統領の発案でパリの中心部に作られ、
1977年に落成した。レンゾ・ピアノ設計による斬新なデザインは、シンプルで、
従来のどっしりとした美術館の建物と異なるので批判をあびたりもした。
現代美術館なのだから、未来志向の機能美追求型で良いと私は思うけど。
今回、印象に残ったものを数点、ご紹介。
1,アウグスト・マッケ(1887~1914)「リュート奏者」1910年

「青騎士」のメンバー。単純化された形態で色彩豊かな表現。この絵もリュート
を弾く女性が主題だが、手前のテーブルの上も静物画として完成していて面白い。
マッケは第一次大戦で戦死。27才だった。
2,エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー(1880~1938)

ドイツ表現主義の画家。大胆なデフォルメ、強烈な色彩の人物は不安、退廃の影を
宿している。実際、ヒットラーに退廃芸術と指摘され、数年後ピストル自殺をした。
3,ジョルジュ・ルオー(1871~1958)

フランスの美術学校でマティスと同期だが、生涯、独自の路線でキリストやサーカス
のピエロなど底辺に生きる人々を描いた。黒の太い輪郭線、粗いタッチ、強い色彩。
この絵は右端のキリストが男に手を差し伸べているが、なんの癒しだろうか。
聖書のどこかの箇所だと思う。
4、ロベルト・ドローネー(1885~1941)「詩人Philippe Soupaultの肖像」1922年

鮮やかな色彩で幾何学模様の抽象画を多く描いている。エッフェル塔を
様々な角度から描いシリーズも面白い。この絵も背景にエッフェル塔を入れている。
5,ソニア・ドローネー(1885~1979) 「若いフィンランド女性」1907年

ソニアはロシア生まれ、18才からパリに住み、ロベルト・ドローネーと結婚。
フランス国籍も得る。幼い頃の故郷ウクライナの明るい太陽の思い出の鮮やかな
色彩で大胆な表現の絵画。デザイン、テキスタイルでも活躍、モードの中心だった。
6,キース・ヴァン・ドンゲン(1877~1968)「マダム・Jessy」1920年

オランダ生まれ、ロッテルダムの美術アカデミーに学び、20歳の頃にパリに
移り住んだ。強烈な色彩でフォーヴィスムの画家の仲間入り。華麗な色調、
叙情豊かに細身の女性を描き、肖像画家として多数の注文を受けた。
7,アンドレ・ドラン(1880~1954)「河舟」1906年

ドランは、マティス、ヴラマンクと共にフランスでフォーヴィスムをおこした。
フォーヴィスムは従来の見たままの色でなく「感じた色」を用いて表現したので
中間色が少ない原色中心だったためフォーヴ(野獣)とよばれた。
この絵は、画商のすすめで、ロンドンに滞在し、テムズ川沿いの風景を描いたもの。
ドランは絵画のみならずバレエやオペラの舞台美術や衣装も手掛けた。
8, ジョルジュ・ブラック(1882~1963)「大きな裸婦」1907年冬~1908年6月

ブラックはピカソと共にキュビスムの創始者。ピカソは1907年に「アヴィニョンの娘たち」
を発表。ブラックはこれに応答し、この「大きな裸婦」作品を描いた。
キュビスム作品でもないのに萬鉄五郎の「裸体美人」が浮かんだのはなぜ?
9,パウル・クレー(1879~1940)

「青騎士」のメンバーとしてスタートしたが、独自の作風を貫いた。
この絵のように四角形を組み合わせた作品も多い。
10,シャガール(1887~1985)

ロシア領だったベラルーシ生まれのユダヤ人。色彩の魔術師といわれるほど
豊かな色で愛や故郷をテーマにおとぎ話のように描く。
11、ピエール・アレシンスキー(1927~ )

ベルギー出身。日本の書道に影響を受けた筆さばきで抽象画を描く。
1955年に来日、前衛書道家の森田子龍らと交流、書くことと描くことを
一致させる試みをする。10年以上前に、ポンピドゥーセンターで展覧会が
あり、来たついでに見たのだが、どれもこれも白い画布に青い絵の具で
描かれた作品。共感を覚えなかったのだが、周りにいたフランス人が
「日本から来たの?」とか「彼は日本に影響を受けてるんだよ。知ってるでしょ」
と話しかけてくるので困った思い出が。。
ポンピドゥーセンターの展示会場の廊下に面した所には、大きな絵が
かけられている。
12,エデュアルド・アロヨ(1937~2018)

スペインの画家。グラフィックアーティスト、舞台美術家なので、作品が
廊下にあると異質で、演劇の舞台が、、と思ってしまう。
この記事へのコメント
コザック
Taekoさんのポンピドゥーセンターの記事をみるたびに、いいなぁという思いと日本にもこの規模の現代美術の美術館があればよいのにと思ってしまう。もしくは定期的に日本でポンピドゥーセンター展をやってくれるとか。。
あ、私も引越し完了です☆ 7時間くらいで移行できました。
こちらでもよろしくお願いいたします(^^)/
taeko
コザックさん、
<日本にもこの規模の現代美術の美術館があればよいのに>
→ まさに、そうですよね。東京都現代美術館は、企画展に時々良いものがあるけれど、所蔵品が少ないから常設展があるのかないのか。。
ポンピドゥーは、来年から5年がかりの大改修だそうです。だから、日本にも作品の貸し出しをするでしょうね。
コザックさん、引越し完了ですか、 伺います。
Inatimy
taeko
YAP
おとさんの記事のコメントのところで、私のすぐ上(前)の taeko さんのコメントが歴史に詳しそうな方だと気になり、こちらへジャンプしてきました。
ポンピドゥは、ルーヴルやオルセーに比べると日本での知名度はもうちょいという印象ですが、現代美術の所蔵としてはすばらしいそうですね。
私は過去に2回、ここの目の前まで行ったことありますが、いずれの日も休館日でしたので、未だに中に入ったことがありません...
いっぷく
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーの作品ですか。ナチス政権下で「退廃芸術」と弾圧された背景も考えると、その作品に込められたメッセージの重みがより一層際立ちます。
taeko
ポンピドゥーセンターは所蔵作品が多いので、時々展示替えをします。だから、私が数年に1回いくと、毎回、前とは違って展示で面白いです。
キルヒナーの作品は、毎回、何点も出ていて、着飾った男女が多いのですが、今回の青い背景のは、ひとり鏡に向かい心が鏡に映し出されてるかのような絵で気になりました。(題名を撮り忘れました。)
第一次大戦には志願したほど愛国心があったのに、ナチスに「退廃芸術」と烙印を押され、作品が没収されたり破壊されたりでは、生きる希望がなくなりますね。思想統制は怖いですね。
Taeko
ご訪問ありがとうございます。
歴史は好きですが、詳しくないです。詳しくなりたいです。
>ポンピドゥは、ルーヴルやオルセーに比べると日本での知名度はもうちょいという印象ですが、現代美術の所蔵としてはすばらしいそうですね。
>私は過去に2回、ここの目の前まで行ったことありますが、いずれの日も休館日でしたので、未だに中に入ったことがありません... → 所蔵作品数が6万で世界一です。友達がボザール(美術学校)に留学した時、彼女の案内で何回か行き、親しみがわきました。ボザールの学生は並ばずに入れるフリーパスがあるのです。
マクロンの大事業で大改修にはいるので、来年から5年閉館とききました。
ukkari-k(うりくま)
本当に改修工事に入るのですね。行くたびに違う作品を鑑賞できる程
収蔵作品が多い美術館も、何度も観に行かれるtaeko様も素晴らしいで
す。この中では特にロベルト・ドローネー、キース・ヴァン・ドンゲン、シャガールの作品が良いなあと思いました。是非日本にも来てほしいです。
おと