個人コレクション傑作展・印象派からフォーヴへ(パリ・マルモッタン美術館にて)

マルモッタン・モネ美術館の説明は、以前の記事でしているので省略する。
マルモッタン・モネ美術館は、所蔵品が印象派中心なので、2014年に
開館80年記念として個人コレクションの印象派主要作品100」展を
開催したところ、来場者が28万人もあった。

今回は傑作といわれる作品を30人の個人コレクターから借りて
「印象派からフォーヴへ」と歴史的流れを追う展覧会である。
企画をしたのは、この美術館のキューレーター、クレール・デュラン=リュエル・スノレールさんで、
近代画商ポール・デュラン=リュエルの子孫である。

「印象派からフォーヴへの旅」というサブタイトルなので、順を追っての紹介。


1、印象派
図録の表紙は、カイユボットの「ヨーロッパ橋」1876年。
大きな絵で、2013年ブリヂストン美術館での「カイユボット展」の時に見
た。
ジュネーブのAssociation des amis de Petit Palaisの所蔵品。これは絵の一部分。

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モネは5枚あったが、秀逸はこれ「赤い菊」1880年
絵ハガキになって売っていた。
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ルノワール「Madame Josse Bernheim Dauberrileの肖像」1901年
当時一番の画商Bernheim氏の依頼で、彼の家の
嫁を描いた。
すぐそばに、これより小さいサイズで「バラ色のイボンヌ」1899年があった。
「ピアノを弾く少女」のモデルのイボンヌ・ㇽロール(妹の方)の7年後、
大人になった姿だった。


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ドガ「入浴後の朝食」1883年 パステル画
裸ですぐ横に浴槽がある。それなのに、コーヒーのカップを持って、、
日本人の私からしたら、服着る方が先でしょ、と思ってしまうが。。
デッサンの上手なドガならでは、の家での一瞬をとらえた絵。

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2、新印象派
スーラ「Courberoieの風景」1885年 81×65センチと大きくはないが、
存在感のある絵だった。美しい。
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ゴッホもあったが、1点だけ、サンレミの療養所で描いたバラの絵だった。
日本で、ほどの人気はない。

シニャック「カステラーヌ」1902年 Castellaneはプロヴァンスにある。
高い山が村を見下ろす地域。
光あふれるプロヴァンスという様子。
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3、総合主義 Synthetisme

ゴーギャン「『希望』への静物画」1901年
『希望』とは、絵の中で、左上の壁にかかっているシャヴァンヌの「希望」という絵の
ことである。ゴーギャンはシャヴァンヌの色彩と構図を称賛していた。
これは亡くなる2年前の作品。タヒチで貧乏生活をしていたゴギャンの収入源はパリで
絵を売ってくれる画商アン・ブロワーズ頼みだった。果物や花の静物画を描くようにと
いうアン・ブロワーズからの指示で描いた絵。ひまわりは太陽のシンボルでゴッホへの
オマージュ。大きな半円形の木の花瓶はタヒチのシンボルとして赤い人物が彫られている。

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ロートレック 「洗濯女」1887年 パリに出てきてボナのアトリエ、コルモンの
アトリエで学んだが、アカデミックな画風に反抗し、貧しいけれど、生き生きと
暮らす人々の生活を描いた。モデルは、ユトリロの母、シュザンヌ・ヴァラドンである。
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ベルナール 「Y港の崖」1892年 ベルナールは、最初はコルモンの画塾で学んだ。
後に、ゴーギャンと共に、平坦な色面を太い輪郭線で囲むクロワゾニズムを提唱した。
これは次の時代の抽象画へと続く道だった。

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4、彫刻

カミーユ・クローデル「接吻」 1900?年
カミーユの師、ロダンは、「神曲」のパオロとフランチェスカの悲恋を題材に
「接吻」(大理石)という彫刻を制作し、評判になった。
これは、ブロンズだが音楽的。愛に溶け込んでいく足元、神経が行き届いた
手先、崩れおちる手前の官能と優雅さ。美しい。
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ロダン「洗礼者ヨハネの頭部」1892年
ロダンはこの3年前、1889年に洗礼者ヨハネの像(上野・西洋美術館にもある)
を制作したが、今回は、頭部だけを取り出し、モダンな雰囲気で制作した。
聖書に基づく「サロメの物語」をもとに、ヨハネの首を皿の上に載せる形にしている。
彫刻なので、見る角度で、違って見えた。

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5、ナビ派
ヴュイヤール「Josse兄弟夫妻と幼いガストン・ベレンハイム アンリマルタン通りの家にて」1905年
ヴュイヤールはゴーギャンの影響を受け、日本美術に興味を持った。
家族など自分の周りの人々を描いた。ナビ派の中でも装飾的な画風に特徴がある。

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ヴュイヤール「果物摘み」1899~1900年
風景画の少ないヴュイヤールの作品。ボナールの絵?と思った
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ボナール「立ち姿の裸婦」1905年
ボナールは後に妻になるマルトと出会い、生涯ずっとマルトをモデルに絵を
描いた。これは初期の頃の裸婦なので、強い色が使われ、攻撃的な感じを受ける。
冷たい光に包まれた裸婦は彫刻のようである。
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6、象徴派

ルドン「木の下に立つ人物」1894年
図録の裏表紙に使われていた絵。

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7、色の周りに

マティス「海に向かって開いた窓、エトルタにて」1920~21年
モローの弟子だったマティスだが、1897年、パリでピサロと一緒にカイユボット展を
見に行ったことから画風が変わり、驚くような色遣いをするようになった。
この作品は、それから25年後、嵐のあとのエトルタ、窓を額縁のように
使うのは、パリ時代にもあったが、ここでは、海岸が画面を斜めに切っている。
青と紫の空、近景はオレンジと緑で海岸線は緑。雲がノルマンディの空の特徴だが、
印象派の描いた黒っぽい雲とは異なっている。
この場所がエトルタとわかるのは、左端の変わった形の岩からと言えよう。
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8、フォーヴィズム

デュフィ「マルティーグ(プロヴァンスの都市)の船」1907年
マティスと知り合い、フォーヴのグループに入る。デュフィはフォーヴィズム作家の中では、
色合いがおとなしい。この絵では船が異なるアングルで描かれているのが面白い。
この翌年、ブラックと制作を始め、フォヴィズムを離れた。

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アンドレ・ドラン 「ヴラマンクの肖像」1905年
黄色の背景、黒のソフト帽、まんまるの2つの眼の下に赤い口髭。髪も赤。
頬は白とバラ色。シンプルな色を使った表現。
アンドレ・ドランはマティスやヴラマンクとともにフォーヴィスムを創設した。
大胆で鮮やかな色彩と構図で描いた。

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ヴラマンク「コンポートのある静物画」1905年
ヴラマンクはゴッホを尊敬していたので、粘っこい塗りはゴッホ流。
黄色の洋梨に青緑の器、花瓶やテーブルの上に横たわるものも青緑系。
テーブルの上のものはみな丸く、テーブルの角は三角形を作っている。

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追加分
ピカソ「スペインのダンサー」1901年 ピカソ20才、バルセロナで暮らしていた時代
の作品。青の時代の前、初期の作品。
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この記事へのコメント

  • yk2

    「印象派からフォーヴへ」って展覧会の図録の表紙を飾るのがカイユボットって、やや地味なのでは・・・と心配(笑)になりつつも、燻し銀の様(?)なチョイスで好き(^^。

    モネの『赤い菊』、鮮烈ですね。個人コレクターたちが所蔵する作品を集めて・・・ってことで、taekoねーさんを以てしてもこれまであまり目にした事のない、初めて見る様な絵がたくさんあったのでしょうね。羨ましいな~。

    ところで、ベルナールの絵が「4、彫刻」に行ってしまっているのを、ロートレックの後ろになおしてあげて下さいませな。二人の作品が順に並ぶと、ロートレックの人生を描いた映画『葡萄酒色の人生』で語られたエピソードみたいにコルモン画塾の「アナーキーな悪ガキ2人」が揃ってる様で、なんか楽しく思えますから(^^。
    2019年02月16日 09:37
  • TaekoLovesParis

    yk2さん、<ベルナールの絵が「4、彫刻」に行ってしまっている>
    → 彫刻と絵、この2つが並んでるのは、似合わないっていうか、おかしいわよね。実は図録で2つが並んでたから、スキャンして、切り取るのを忘れ、「ま、いいか」とアップしちゃいました。yk2さんには、変、って見破られてしまいましたね。だから、なおしました。カミーユの下には、ロダンのサロメに因んだ作品を置きました。今度は、どうだ!

    当時は、コルモンの画塾が有名で一番だったから、ロートレックもベルナールも、ゴッホも、みんなスタートはここで、アカデミックな画風を学んだんですよね。それぞれ、個性的ですごい転換ぶりですね。
    2019年02月16日 12:54
  • ふにゃいの

    どれも素敵な絵ですね。
    モネの赤い菊がすばらしいです。
    個人的にはこの中ではマティスの絵が好きですが。
    もともと私がお気に入りの画家はヴラマンクですが
    やはり時期によって色使いtかも全く違うんですよね~。
    2019年02月16日 13:23
  • TaekoLovesParis

    ふにゃいのさん、良い作品ぞろいで、見て歩くのがうれしかったです。
    モネの赤い菊、実に華やかでした。敷物にも赤が入り、花瓶にも赤が、と赤ずくしですが、計算されてのことでしょうね。背景の色合いがルノワールのようだと思いました。
    このマティス、開いた窓から斜めに見えるのがいいですね。
    ここでは、ヴラマンクは、この一点だけでした。今は改装で休館中ですが、東京・京橋のブリヂストン美術館の「運河船」、いい作品だと思います。
    2019年02月16日 18:10
  • moz

    モネの赤い菊も良いですが、スーラの「Courberoieの風景」良いな ^^
    透明で優しい光が感じられます。落ち着いていていつまでも見て痛い感じの絵ですね。 ^^v
    ルドンの「木の下に立つ人物」も通り過ぎできない感じの絵だなぁ~。
    流石、パリ・マルモッタン美術館ですね。
    そうそう、ブリヂストン美術館は来年4月新美術館で開館なんですね。
    楽しみ ^^v
    2019年02月17日 07:49
  • nicolas

    デュフィのマルティーグの船、長沢節センセが好きそうです。
    ベルナール「Y港の崖」、何だか不思議な魅力を感じます。
    カイユボットの「ヨーロッパ橋」、ワンコの右に川を眺めるオジサンが居たような。合ってます?
    2019年02月17日 15:37
  • Inatimy

    ゴッホのバラ・・・どんな絵のだろう・・・と探してみたら、"Les Lauriers roses. Le jardin à l'hôpital à Saint-Rémy" ですね^^。
    日本の国立西洋美術館が持ってる1889年のバラ"Roses"の絵とは、同じ年代なのに、全くタッチが異なるのも、ゴッホの心情を表してるのかしらと思ったり。
    マルモッタン・モネ美術館でバラというとモネの"Les Roses" 1925-26が浮かびます。
    視力の低下、白内障を患った晩年の作品で少々荒っぽさはあるものの、好き。
    あと、ベルト・モリゾの"The Garden at Bougival"1884にもバラの花らしきものがあったなぁと^^。
    2019年02月18日 21:02
  • TaekoLovesParis

    mozさん、「Courberoieの風景」は、代表作「グランド・ジャット島の日曜日」のモチーフになったのでは?と思えるような水辺ですね。これが1885年で、グランド・ジャット島は1884年から86年、重なりますね。光を受けたさざ波が美しいですね。いつまでも見ていたい、その気持ち、わかります。見ているうちに穏やかな気持ちになるでしょうね。
    2019年02月19日 22:06
  • TaekoLovesParis

    nicolasさん、Dufyは、テキスタイルもしていたから、長沢節先生が好きそう、なんでしょうね。ベルナールの「崖」、ピンクだし、この形って、と不思議ですよね。輪郭線はあまり感じず、デザインされている感じがします。
    <ヨーロッパ橋」、ワンコの右に川を眺めるオジサンが居たような。>→います。遠慮なくバサッと切られています。横長の絵だったけど、本の表紙はA4で縦長だから、こんなふうに切るしかなかったんでしょうね。
    2019年02月19日 22:26
  • TaekoLovesParis

    Inatimyさん、サンレミの病院でのバラ、形がはっきりわからず、かなりモヤモヤがすすんでる、と思ったのですが、Les Lauriers roses(単laurier-rose)は、夾竹桃のことでした。laurierは、お料理に使うローリエ、月桂樹の葉のことです。夾竹桃だとしても、ゴッホの筆のタッチ、長い点描で、もやもや~って、好きにはなれない絵でした。西洋美のゴッホのバラは好きです。
    続きはあとで。
    2019年02月21日 09:01
  • TaekoLovesParis

    Inatimyさん、続きはあと、と書いたのは、マルモッタンのモネのバラが、どんなのかわからなくて、探してるうちに出かける時間になってしまったからです。ブルーの背景のですね。小さなバラで、西洋美術館のゴッホのバラに似た感じ。
    ベルト・モリゾの"The Garden at Bougival"、赤く目立つバラ、クリーム色のバラ、赤と白の絞りのバラ、バラがいっぱいですね。花瓶に活けるバラではなく、庭で咲き乱れてる緑の多いバラ。モリゾの描く庭には、この緑がたくさん使われてますね。
    ちなみに私はゴッホのバラでは、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの花瓶に入ってるのが好きです。
    2019年02月22日 00:09
  • コザック

    こんばんは
    モネの菊は彼にしては、めずらしい色使い。
    ここまで赤を使ってくれると心弾む☆
    こんな絵葉書もらってみたい(^^)
    スーラの画は、、部屋に飾ってみたい~と
    個人的な妄想を掻き立てる美術館ですね(^_-)-☆
    2019年02月26日 23:11
  • engrid

    スーラが好きです、
    モネの赤い薔薇の華やかな赤はめを惹きますけれども
    ロートレックの活力感じられる絵も
    個人コレクターを集めての,順を追っては、良いですね
    立ち止まってばかりで,なかなかすすめそうもないですけれど
    2019年02月27日 17:50
  • TaekoLovesParis

    コザックさん、絵はがき、買って、友達にあげちゃいました。コザックさんもほしかったのね(笑)スーラのこんな景色の川岸に佇みたいですよね。気分がゆったりしそう。今の気分としては、下のシニャックの光あふれるプロヴァンスの強烈さより、優しいほうがいいなぁ。
    この美術館は、日本のと、レベルが違うって思いました。
    2019年03月01日 20:10
  • TaekoLovesParis

    engridさん、マルモッタン美術館での第1会個人コレクター展は、印象派100点、その売れ残った図録が、一昨年行った時にバーゲンで2ユーロ(260円)でした。開いてみてびっくり。有名作家のすばらしい作品ばかりだったのです。だから、今回、期待して行きました。そして、とっても満足の内容でした。スーラ、小さいのに存在感がある作品で、他は人だかりしていないのに、この絵だけ何人もの人が見ていました。
    モネの赤い菊は、白地に花模様の花瓶がいきてますね。
    2019年03月03日 00:21
  • coco030705

    こんばんは。
    どれもこれも、好きな絵ばかりです。すごい展覧会ですね。
    もちろん、ビュイヤールの2枚は大好きです。風景画は渋い色使いで、やはりビュイヤールらしいですね。ルノワールの絵は、上品ですね。タッチの柔らかさが、ルノワールだなと思います。
    スーラとシニャックの点描画のすばらしさに驚きました。ゴーギャン「『希望』への静物画」も魅力的な絵だなと思います。色々なものが盛り込まれているのですね。ひまわりがゴッホへのオマージュということで、胸が熱くなります。
    ロートレックの洗濯女のなにげないポーズの美しさ。モデルがヴァラドンとはさすが。そしてモネの赤い菊の花。菊とは最初わからなかったんですが、じっと見たらそうだなと。すごいインパクトがありますね。
    総てが好きな絵という展覧会は、珍しいです。
    2019年03月06日 00:51
  • TaekoLovesParis

    cocoさん、丁寧に見て頂いてありがとう。
    <総てが好きな絵という展覧会は、珍しいです。> → その通りよ。ビュイヤールの絵の前では、cocoさんに見せてあげたい、って思いました。モネの5点が一番多かったけれど、次がビュイヤールと彫刻のカミーユ・クローデルで4点でした。ルノワールの絵は、肖像画だし、遠くからでも、「あそこにルノワール!」って、すぐわかるのが、嬉しいです。

    ここに写真を載せる時も、なるべく原寸の比率に近いようにしました。大きい絵と小さい絵ではインパクトが違いますものね。スーラのこの絵は、小さいのに、輝いていました。ゴーギャン、、こんなにたくさんの向日葵。自分の好きなものと一緒に画布に収め、亡くなった友に寄せる想いの強さがわかりますね。

    モネの菊、日本画では、菊は葉っぱですぐわかるけど、この菊は葉っぱの形が印象派のタッチだから、どうしても花に目が行きますね。
    2019年03月08日 10:46
  • coco030705

    Taekoさんへ
    ありがとうございます♪♪♪ Taekoさんのブログ写真でもヴュイヤールの絵は、充分きれいです。また何かの展覧会で、ヴュイヤールに絵に出会えたらと思います。
    2019年03月09日 00:12