新・北斎展

tirashi.jpg「北斎展のチケットもらったから行こう」と誘われて行った。
予備知識がなかったので、「北斎展、しょっちゅうあるわねー」って思ったけれど、今回のは全然違った。

北斎研究の第一人者である「永田生慈」さんのコレクション。
この展覧会の準備中に永田さんは亡くなり、コレクションは遺言で島根県立美術館に寄贈される。
そして島根県のみでの展示となるため今回が最後の東京でのお披露目。

展示作品は、永田コレクションの他にも、太田記念美術館、ギメ美術館、シンシナティ美術館
などからも借りてきているので、全部で約480点(展示替えあり)と大規模だ。
作品はほぼ年代順に展示されていた。

1、春朗時代(20~35才)北斎は19才で勝川春草に入門。師の名前をとって春朗の号を使った。
師に倣い、役者絵や武者絵、芝居絵本の挿絵などを手掛けた。
「四代目岩井半四郎 かしく」
北斎のデビュー作と知って見るせいか、みずみずしさにあふれている気がした。

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役者絵は、「五代目団十郎 かげきよ」「五代目団十郎 松王丸 市川門之助 桜丸」
もあった。今の団十郎、門之助と顔が似てるかしら?とじっくり見た。

両国橋花火の図。両国橋花火見物の図を見ながら、昔はこんなだったのね、と眺めた。
両国の花火は、今は「隅田川の花火大会」とよばれている。
北斎は両国の近く、墨田区に住んでいたので隅田川を描いた作品が多い。

狂言の舞台の絵も数枚あり、かなり緻密に描かれていた。
興味深かったのは、「鎌倉勝景図巻」。鎌倉から江の島への道中を絵巻物にしている。
余白の多い淡々とした画面。「七里ガ浜」はのどかな海岸、「大佛」は背後に山、
木々の中ににゅっと立つ大佛。
知っている場所の昔のようすは面白い。

「鍾馗図」
赤い鍾馗の鬼退治図。強い、強い。勇ましい。
私が北斎に興味を持ったのは、2007年にボストン美術館で見た「江戸の誘惑」展。
鍾馗を描いた旗(のぼり)は赤色が印象的だった。

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浮世絵は光による退色があるので、展示期間は短くなっている。
ここにあげた2つは、1月28日までの展示だった。

2、宗理時代(36~46才)
勝川派を離れ、琳派の「俵屋宗理」を襲名。大判錦絵や絵本の挿絵という新たな
分野に取り組む。
この時期の代表作は、「風流なくて七くせ 遠眼鏡」(リー・ダークスコレクション)
(2月18日までの展示)
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私が行ったときは、展示されていなかったのだが、私はこれを同じ日、高島屋の
「浮世絵 最強列伝」(1/9~1-21)で見た。高島屋での展示終了後、こちらに
展示される。実物は発色が鮮やかですばらしい。

ベルギー王立美術館所蔵の「上野」「亀戸開帳」は色が美しい。
昔の東京「よつや十二そう」は新宿の十二社のことかしら?などど思いながら見た。
「衝立と屠蘇図」、題名の通り、衝立の前にお盆にのったお屠蘇。
「阿蘭陀画鏡 江戸八景」は、西洋絵画の遠近法、銅版画の細密な技法の影響を受けた作品。

「夜鷹図」柳の下で客をひく遊女の後ろ姿。うっすらと月が浮かび、蝙蝠が舞う。
柳の葉の繊細さ、いつ客を待つ遊女の心も繊細なのだろう。細い筆使いが美しい。
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「行楽帰り図」は、千鳥足の酔っ払い男2人の楽しそうなこと。見ている方も笑ってしまう。

「津和野藩伝来摺物」の抜粋。楊貴妃、小野小町、蓮華女
津和野藩主亀井家伝来の作品。長らく秘蔵だったので状態が良く美しい。

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3、北斎時代(46~50才) 読本挿絵へ傾注

東海道五十三次(吉野屋版)「日本橋・箱根・興津・府中・浜松・宮・桑名・京)
知っている所ばかりで興味深く見る。箱根といえば富士山。興津は海、浜松は海に松。

広重より前に、北斎は、東海道五十三次を描いてる。

「円窓の美人図 」(シンシナティ美術館)
遠くからみても目立って美しい。

髪の毛1本1本まで丹念に描かれた絵。半襟の模様がきれい。
きれい!と思って見ると、外国の美術館蔵というケースが多い。

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「かな手本忠臣蔵」シンシナティ美術館)
北斎の母は吉良家の家臣であったので、北斎は忠臣蔵を描かなかったと言われて

いるが、実際には描いていた。
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「蛸図」「海老図」「布袋図」は、そのままの確かな描写だがどこかユーモラス。


4、戴斗時代(51~60才)北斎漫画の誕生
門人を多く抱えるようになったので、絵手本として「北斎漫画」を制作した。
漫画は小さいと見えにくいので、図は省略する。
「なまこ図」「生首図」そのものずばり、だった。


5、為一時代(61~74才)北斎を象徴する時代
有名な富岳三十六景、諸国名橋奇覧、諸国瀧廻りが制作された時代。
風景画だけでなく、花鳥画、古典画、武者絵なども
制作した。

「富岳三十六景 神奈川沖波裏」
異なる摺りのものが5枚の作品で示されていた。
ここではっきり見える茶色の舟が、色が薄く見えにくくなっているものもあった。
こういう比較ができるのは興味深かった。

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「富岳三十六景 凱風快晴」

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以上の2つは、同日、高島屋の「浮世絵最強列伝」にもあった。
同じものがあるのは、摺りものならではのこと。


6、画狂老人卍時代(75~90才) さらなる画技への希求
「向日葵図」(シンシナティ美術館)
88才の作品。竹竿で向日葵の高さを示している。
葉の色には、はっきり濃淡があるなど細かい描写。

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同じく最晩年の作品「赤壁の曹操図」
曹操が船の上で一人、槍を持ち立っている。劉備、孫権との戦いに向けての決意だろうか。


最後の作品は「弘法大師修法図」(西新井大師)
弘法大師が祈りで、疫病神の鬼と戦っているところ。
犬は苔のはえた古木に巻き付き吠え続けている。黒い背景の中で3者だけが浮かびあがる。
恐ろしいほどの力作。結末は祈りが勝った。

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永田氏がパリのギメ美術館で浮世絵調査をしていた時、見せられたのは、「雲龍図」、
落款は「九十老人卍」。まさに北斎作品。しかもその表装と大きさは、永田氏が
副館長をしている「太田記念美術館」にある「雨中虎図」と同じ。

あまりの衝撃に息をのんだと永田氏は語っていた。つまり2つの作品は一対。
2つを並べると、両者は向き合い、天の龍と地の虎になる。これを見たかったのだが、
まだ展示期間ではなかった。今日1月30日から3月4日までの展示なので行きたい。


※今まで、いくつか「北斎展」は見たが、このように画業全体を見る展覧会は初めてだった。
しかも永田氏の秘蔵のコレクションを東京で見る最後の機会。
新・北斎展、HOKUSAI UPDATED
のタイトル通りだった。

この記事へのコメント

  • コザック

    こんばんは
    Taekoさんが「今回のは全然違った。」とおっしゃるくらいということは、一般人はワクワクが止まらんですね。意外と会期が短いので時間見つけて行って来なくては(^^)/
    2019年01月30日 23:45
  • TaekoLovesParis

    コザックさん、今まで見ている北斎は、「富岳三十六景」「諸国名橋奇覧」「諸国瀧廻り」「江戸百景」など景色ものが多かったのですが、今回のは回顧展なので、あらゆる分野のものがそろってます。私は天の龍と地の虎が向き合って展示されている「雲龍図」と「雨中虎図」を見たいので、もう一回行くつもりです。
    2019年01月31日 00:00
  • 初夏(はつか)

    息をのむ美しさ、激しさ。
    ホント、まさしく「新・北斎展」ですね~。
    「行楽帰り図」、調べて観ました。
    うふ、私も思わず笑ってしまいました^^
    2019年01月31日 15:57
  • moz

    本当ですね !! いつもの北斎展とは確かに違うみたいっす。
    いこうかどうか迷っていましたが、ご紹介して頂きやつぱり行ってきます^^v
    「夜鷹図」「向日葵図」「弘法大師修法図」こんなの見たことないです。
    それに、雲龍図」と「雨中虎図」のそろい踏み、見たいです!!
    何時から何だろう? 調べてみます。
    2019年01月31日 18:19
  • Inatimy

    この中で一番印象に残ったのは「向日葵図」。
    渓斎英泉や歌川広重の作品を模写したゴッホが、もしこの向日葵図を見たら、
    どう思ったんだろうなぁ^^。
    向日葵って洋風でモダンなイメージが強く、私の中では江戸時代と結びつかなかったけど、
    調べてみたら、鈴木其一や酒井抱一も描いてるんですね。 意外でした。
    2019年02月01日 19:01
  • チョコローズ

    北斎展、地下鉄の駅の通路に大きなポスターが貼られてて、気になっていました。
    すみだ北斎美術館でも観られるのかな?と思ってた、趣旨が違いましたね。
    なんだかすごそうだ。
    そうか、Taekoさまのブログ読んで、観に行かなくちゃと思いました。
    今回も読み応えありました。ありがとうございました。
    2019年02月02日 14:54
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます。
    ▲初夏(はつか)さん、そうなんですよー、美しさと激しさと両方。端正な美人画から風景画に、70才過ぎての作品になると、恐ろしいほどの激しさが加わり、画業の全体がわかる回顧展のようなものです。
    これを見て、今まで一部分しか見てなかったんだなぁとわかりました。
    「行楽帰り図」、見てくださったのね。漫画っぽいでしょ。

    ▲mozさん、この間、私が「すみだ北斎美術館」で見たのは、「橋」がテーマだったし、その前のは、諸国巡りの滝とか景色でした。今回のは、画業全部がわかる展覧会です。前期と後期、がらっと入れ替わるので、後期も行くつもりです。「雲龍図」と「雨中虎図」のそろい踏みがあるので。2つ見れるのは1/30~2/18.

    ▲Inatimyさん、そうなんです。向日葵は、江戸時代から描かれてるのです。私は、鈴木其一の「向日葵図」が好きです。縦に長い向日葵は、掛け軸として、しっくりきますね。向日葵は17世紀に日本に来たとのこと。
    これはゴッホの作風とは、真反対ですよね。淡々としてます。老境にふさわしいのでしょうか。

    ▲チョコロさん、そう、すごいんですよ。最上の誉め言葉をありがとうございます。
    2019年02月03日 00:54
  • yk2

    北斎が二代目俵屋宗理って、北斎の作品に琳派を感じるところが僕には殆ど無いんですけど、そもそも初代・宗理の作品自体あまり観たことがない。自分の行った展覧会の図録を見直してみても、ファインバーグ・コレクション(楓図屏風)と細見美術館(朝顔図)の1作品ずつくらいしか見当たらないんです。実際その2点は宗達風。初代は花鳥画が得意な人だったみたいですが、それなのに北斎が宗理の様式を継いでいるだろうところは肉筆美人画的な部分だけ?。それってそもそも宗達の雅な作風とはだいぶ違う部分の様な・・・(^^;。過去に僕が出掛けた北斎展って、あまりこの辺りに詳しく解説をしてくれているものは無かったけど、今回の展覧会はどうなんでしょうね?。その点、是非確かめに行きたいと思います(^^。
    2019年02月03日 09:34
  • coco030705

    こんばんは。
    葛飾北斎といえば、神奈川沖波裏と凱風快晴がすぐ目に浮かびます。もちろん浮世絵の美人画もいいですね。円窓の美人図 は本当に美しいです。遠くから見ても美しいのですね。
    でも、鍾馗図や弘法大師修法図は、観たことがなかったです。こんなものも描いていたんですね。とても力強い絵です。画業の範囲の広さ?がよくわかりました。
    夜鷹図と向日葵図も好きです。
    興味深い展覧会ですね。
    2019年02月03日 18:21
  • TaekoLovesParis

    yk2さん、私も「宗理」の時代と言う割には、花鳥画は「桜に山吹」「竹に昼顔」くらいでした。しかも、琳派の粋さ、優美さがない花です。線が目立つかわいくない花なのです。細見の「朝顔」も然りでしょ。調べてみたら、「宗理」襲名から3年後に、号を門人の宗二に譲り、「北斎辰政」と名乗って独立してしまったんですって。その時代には、錦絵や絵本の挿絵をたくさん制作。実際、会場で見る錦絵の美人画は美しいです。挿絵は北斎漫画につながって行ったように見えました。
    宗達画、光悦書の作品では鹿など動物も優雅に描かれ、格調の高さを感じるけれど、北斎が描くと動物もお道化た感じになっちゃう。
    花の話に戻るけれど、「向日葵」、葉っぱはいいけれど、花が投げやりな感じで、琳派とは大いに異なると感じました。
    この展覧会も前期と後期、がらっと入れ替わるので、2度行かないと、なのです。
    2019年02月03日 23:48
  • TaekoLovesParis

    cocoさん、<画業の範囲の広さ?がよくわかりました。>→ そうでした。そして回顧展みたいに、年代順に並んでいるので、後から思い出しても、
    あそこにあったから、〇〇の時代ってわかります。大阪への巡回はないみたいね。島根に行ってくださいということかしら。
    2019年02月04日 00:31
  • engrid

    最晩年まで、
    年を追っての作品群は、変遷もあり、見応え充分ですね
    最晩年までの追求、衰えを知らない精神と力量 素晴らしい
    まだ、描きたいものがいくつもいくつもあったことでしょう
    写真を見ながら、解説を拝読、、もう感動です、
    見に行けないので嬉しい限りです
    2019年02月06日 17:54
  • TaekoLovesParis

    engridさん、画家、小説家には晩年になると筆が粗くなる人が結構いますが、北斎は衰え知らずで、最後まで画法の研究をしていました。すごいですよね
    すみだ北斎美術館の「北斎の橋」という展覧会で、実物大の人形の北斎、布団をかけて、俯きで寝そべって絵を描いている姿でした。絵を描くことがすべてという生活だったんでしょうね。
    2019年02月06日 22:30
  • チョコローズ

    チケット買いました!
    東京都美術館で開催が始まった「奇想の系譜展」との抱き合わせチケット。
    この連休中に行くつもりが、雪で足止めです!
    でも行ってきます!夜もやってるから嬉しいわ。仕事帰りに行けます。
    2019年02月09日 14:16
  • tarou

    お早うございます、吾妻山ハイキングに
    コメントを有難うございました。

    北斎展、興味有りますがなかなか行けません
    ブログで我慢してしまいそうです。
    じっくり鑑賞する時間が有ると良いんですがね。
    2019年02月10日 08:28
  • TaekoLovesParis

    チョコロさん、都美との抱き合わせチケットもあるんですね。
    雪と大げさな報道だったけど、たくさんは降りませんでしたね。
    最近は何曜日かの夜に8時までやっている美術館がふえてうれしいです、ゆっくり見れますよね。
    三菱一号館は毎週水曜が女性のみ1000円だったか半額だったか。。
    2019年02月16日 00:01
  • TaekoLovesParis

    tarouさん、先週、行った友達の話では、かなり混雑していたとか。北斎展は、何年かに一回あるので、これからも見る機会が多いと思います。
    北斎の絵の版画も販売していましたが、25000円でした。
    2019年02月16日 00:06
  • コザック

    こんばんは。
    行ってきました。かなり見ごたえありましたね(^_-)-☆
    最後の龍と虎は2枚が出会えてよかったのと迫力を感じました。
    虎はなんだかとてもかわいらしく神々しい龍と対とは対照的でした☆
    晩年にこのような発想になれるってやはり北斎スゴイ☆
    2019年02月26日 23:15
  • TaekoLovesParis

    コザックさん、見応えあったでしょ。丁寧に見てると、すぐ2時間たっちゃいます。最後の龍と虎、表装の図柄が全くおなじですものね。何年後かに世界を旅して里帰りでのご対面、ドラマですよね。これが見たくて後期展示に行きました。晩年でも、筆の勢いが衰えないのは、すごいですね。見てる方もパワーをもらえると思いました。
    2019年03月03日 01:15