ランス美術館展

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友達Mが一緒に行ってほしい展覧会があるというので、「どこ?」ときいたら、
「新宿西口の損保ジャパン、ゴッホのひまわりのあるところなんだけど、ランス美術館展を
やってるの。フジタがたくさん出てるから」


入ってすぐにあったのがこの絵。顔だけが目立つ。背景の色と服の肩から袖部分がほとんど同じ色
なので、目をひく。ヨーゼフ・シマ 『ロジェ・ジルベール=ルコント』 1929年
シマは、チェコで生まれ、後にパリに出て、シュルレアリスムの作家たちと交流した。

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展覧会は、年代順の配置で、4つのセクションに分かれている。
1.国王たちの時代
2.近代の幕開けを告げる革命の中から
3.モデルニテをめぐって
4.フジタ、ランスの特別コレクション
「平和の聖母礼拝堂」のための素描


[1]国王たちの時代の絵は、肖像画が多い。
リエ=ルイ・ペラン=サルブルー 『ソフィー夫人(またの名を小さな王妃)の肖像』 1776年
ロココ調。ソフィー夫人はルイ15世の6女。マリーアントワネットの義理の姉なので、
アントワネット的雰囲気の豪華な服と家具。
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フランスが栄華を誇ったのは、アンリ4世に始まるブルボン朝の時代。
フランス人に「アンリ4世は偉大な王様よね」と言うと、大抵は大いなる同意が得られる。
アンリ4世の次の王様ルイ13世の肖像画があったが、色白細面の女性的な風貌に少々の違和感。
フィリップ・ド・シャンパーニュ(に基づく)『コルベ―ル』は、威厳を持って描かれ、偉大な政治家で
あったと伝わってきた。


[2]アントワネットの次の時代は、フランス革命の時代。
絵の分野は、優雅なロココ調に代わって、「新古典主義」の時代。
真打登場。ここで、この絵に会えるとは思わなかった。
ダヴィッド『マラーの死』 フランス革命の指導者マラーの死を取り上げたこの絵は人気が高かったので、
ブリュッセル美術館の作品と同じものを、ダヴィッドの工房でいくつか再制作したそうだ。
手に持つ手紙は、暗殺者からのもので、1793年7月13日、Charlotte Corday と名前が記されていた。
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ダヴィッドの次の時代の絵画の主流は、ドラクロワに代表されるロマン派。
『ポロニウスの亡骸を前にするハムレット』 1854~56年
これは油彩画だが、ドラクロワは、当時発明されたリトグラフの技術を使って、1834年から
ハムレットの連作を発表し、好評だった。
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先月、西洋美術館で回顧展があったシャせりオーの絵も2枚あった。
『バンクォーの亡霊』 1854年 シェクスピアのマクベスの一場面。
ここには展示されてないが、シャセリオーはマクベスの別の場面も描いている。
展示されていたもう一枚は「とらわれの女」

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シャンパンで有名なポメリーの「ポメリー夫人の肖像」は豪華な服で美しく描かれていた。
一方、クールベ『彫刻家マルチェロ(カスティリオーネ=コロンナ公爵夫人)』1870年は、写実の
クールベなので、飾り気なく描かれていた。
コローの『川辺の木陰で読む女』1965年、
ブーダン『ダンケルク周辺の農家の一角』1889年
ドーミエ「画家」、カンバスの前に立つパレットを持った画家、自画像なのだろう。
アンリ・ファンタン=ラトゥール 『まどろむニンフ』は、霞がかった天空にいるニンフと天使たち。
著名な画家の作品が一枚づつ展示されていた。



[3]次のセクション「モデルニテをめぐって」は、1870年代印象派の時代からポスト印象派まで。
シスレー『カーディフの停泊地』 1897年 ポメリーの経営者家の所蔵作品。
カーディフはウェールズの首都。旅をしたときの作品だろう。

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ピサロ『オペラ座通り、テアトル・フランセ広場』 1898年 これもポメリーの経営者家の所蔵
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ゴーギャン『バラと彫像』 1889年
色の分割で画面を構成。花瓶の横にある小さな彫刻はゴーギャンがマルティニーク島での作品。
よく見ると、バラの花、ひとつ、ひとつは色が微妙に違う。このくすんだ色合いがとてもいいと思った。

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ぱっと会場が明るくなる大きな絵は、ドニ『魅せられた人々』 1907年
右側に海に連なる神殿風の建物。ヴェニスだろうか。横長のせいか壁画ふうでもある。

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ヴュイヤール 『試着』も良い絵だった。


[4]最後のセクションは、フジタのコーナー。
第二次大戦中に政府の依頼で戦争画を描いた藤田嗣治は、戦後、画壇から糾弾を受け、
日本に居辛くなった。1950年、フランスへ戻り、5年後にフランス国籍を取得した。
ランスは古くからシャンパンの町である。シャンパン会社「G.H.マム」の招待でランスを訪れた
フジタは、シャンパンのミュズレ(コルク栓に被せる金属の蓋)ためのバラの花の画を依頼された。
そして、フジタはランス大聖堂で洗礼を受け、洗礼名レオナール・フジタを授けられた。洗礼親は
「G.H.マム」の会長であった。

フジタは、「G.H.マム」の会長の援助で、「G.H.マム」の敷地内に「平和の聖母礼拝堂」を建立する。

平和の聖母礼拝堂」のためにフジタは壁画をフレスコで作成。この時、フジタは70才過ぎ。
礼拝堂を造りたいという信念があったから、体力も続いたのだろう。壁画を写真パネルで紹介。
さらにステンドグラスのための「聖ベアトリクス」の下絵、彩色した絵、太い黒の輪郭線を加えた
ステンドグラス完成品とプロセスがわかるようになっている。
「七つの大罪」の大きな絵も、デッサンと完成品の2つがあった。


チラシに使われている絵は、『マドンナ』 1963年
映画「黒いオルフェ」の主演女優を中央に、周囲に15人のアフリカ系ケルビムを描いている。
すべての民族の平和を祈るフジタの考えであろう。


『奇跡の聖母 』1964年 聖母マリアが盲目の女性の眼に指を当てている。
周囲には大勢の病人がマリアの奇跡の成就を待っている。美しく穢れない表情のマリア。

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これは絵葉書だが、著作権があるので、ADAGP Paris(フランスの著作権団体)の文字が入っている。


フジタとえば、ネコの絵を思い浮かべる人も多いだろう。それそれの猫の表情、見飽きない。

『猫』 1963年
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有名な画家の作品が1点ずつあり、地方都市の美術館という感じがした。
大きな感動はないが、親密さがあり、予想以上によかった。

後半は、フジタの礼拝堂に的が絞られているので、感動した友達は、いつかここに行きたいと
帰り道、ずっと言っていた。

この記事へのコメント

  • yk2

    で、展覧会の後は当然「やっぱりシャンパーニュが飲みたいわよね~」って流れだったんでしょ?、間違いなく(笑)。フジタに因んでマムを飲みましたか?(^^。taekoねーさんはクルマ(鉄の乗り物全部?^^;)も好きだからマム=F1のシャンパン・ファイトって連想で、そっち方面からもお好きなメゾンでしょう?(^^。

    シャンパーニュに行く機会があったら、やっぱりフジタの教会は見てみたいですよね。僕もお友達さんに同じく、です。
    2017年06月24日 14:10
  • coco030705

    こんばんは。
    すばらしい展覧会ですね。さすが損保ジャパン美術館だと思いました。
    私は昨年はじめて「樹を巡る物語展」に行って、本当にすごい美術館だと感心しました。フジタの展覧会は昨年兵庫県立美術館でもやっていて、↑の猫の絵も出展されていました。フジタの猫、大好きです。それにしても、70歳から聖母堂の壁画を制作するなんて、やはり精神力もすごいのでしょうね。
    この展覧会はいけませんが、次回はぜひ損保ジャパンの展覧会に行きたいと思います。
    2017年06月24日 21:05
  • アールグレイ

    ヨーゼフ・シマの絵を見たときに、ムンクが浮かんできました。
    なんとなく醸し出す雰囲気にそう感じたのかもしれません。
    ソフィー夫人の肖像、栄華の時が偲ばれる華やかな絵ですね。
    コローの絵もあったのですか、コローの絵も好みです。
    ゴーギャンにしては、優しい色合いのバラ、素敵です。
    フジタの絵も繊細な描写が良いですね。
    猫ちゃんたちのそれぞれのしぐさも可愛らしいです^^
    なかなか見ごたえ十分な展覧会ですね。
    2017年06月25日 00:08
  • Inatimy

    ピサロの『オペラ座通り、テアトル・フランセ広場』、
    奥に見えるのがオペラ・ガルニエですね^^。
    昔はこんな感じだったんですね。 Hôtel du Louvreから眺めた風景かしら。
    六角形のタイルの床に寝そべる猫の絵も素敵だけど、
    一番印象的なのはチラシにも使われてる『マドンナ』♪
    2017年06月26日 18:35
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございました。
    ▲yk2さん、関連付けが好きな私なので、マム!ピンクのバラの花のミュズレを思い浮かべながら飲めば、フジタの礼拝堂に行く日も近づくと思ったのですが、あいにく行ったお店にマムはなく、シャンパンが一番安くて12000円だったので、「スパークリングに」と言われてしまいました。モエを置いている店は多いけど、マムを置いてる店は少ないです。赤いたすきがけのエチケット、お祝いっていうイメージで好きです。

    ▲cocoさん、「樹を巡る物語展」にいらした話をcocoさんの記事で読んでいたから、売店で過去の図録を売ってるのを見て、cocoさん!って思いましたよ。
    ここは49階だから眺めがいいですねー。何種類ものJRがジオラマのように走ってるのを見るのも楽しいです。
    この猫は、兵庫県立美術館での展覧会にも出品されていたんですか。かわいい子(猫)は人気者だから旅をするんですね。
    損保ジャパン美術館、今はビルの上だけど、隣接する敷地内に6階建ての美術館専用の建物を建設予定、と書いた紙が貼ってありました。
    2017年06月28日 00:09
  • coco030705

    こんばんは、お邪魔します。
    損保ジャパン美術館が、専用の建物に‼ すごい、完成が楽しみです。
    =^_^=
    2017年06月28日 22:56
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます。お返事遅くてすみません。
    ▲アールグレイさん、ヨーゼフ・シマはチェコで、ムンクはノルウェイですが、時代的には近いですね。人物の顔だけがぱっと目に入るというところがムンクと似ているのでしょう。そして、この人物の虚ろな表情がムンクっぽいかも、ですね。
    ソフィー夫人のような豪華な衣装を見るのは大好きです。豪華な刺繍やレース、すてきですものね。コローの景色は、落ち着くからいいですね。人物画いても2人くらいで静かな雰囲気です。
    おっしゃってくださったとおり、小品ながら見応えのあるものが多かったです。

    ▲Inatimyさん、テアトル・フランセ広場なら私もわかります。オペラ座からまっすぐですものね。パリはこの頃と道路そのもが変わってないので、わかりやすいです。豪華でネオンの看板が目立つHôtel du Louvre、ピサロは、晩年、目が悪くなってからは、ここに滞在して、部屋から見える景色を描いていたんですって。
    同じ場所の絵で雨模様の絵もありました。
    チラシのマドンナは、南アフリカ出身の女優さんだから、色が黒いですね。従来のマドンナ像と違うから、ちょっと驚きますね。
    2017年06月29日 00:37
  • ネオ・アッキー

    TaekoLovesParisさんおはようございます。
    G.H.MUMMのシャンパンカーヴの見学前にフジタ礼拝堂に訪れました。
    とても素晴らしい所だったので、また訪れたいと思っております。
    2017年06月29日 06:06

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