ティツィアーノとヴェネツィア派展

上野の東京都美術館に「ティツィアーノとヴェネツィア派展」を見に行った。
ポスターやチラシの絵の女性「フローラ」(1515年 ウフィツィ美術館蔵)
の美しさに見入ってしまう。手に持つのは花束。

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ティツィアーノ(1490~1576)は、イタリア・ルネサンスの時代の画家だが、
フィレンツェでなく、ヴェネツィアで活躍した。

フィレンツェ派とヴェネツィアの違いは、フィレンツェではフレスコ画が多いが、
ヴェネツィアは水の都で湿気が多いため、油彩画である。またフィレンツェでは
デッサンが重視されたが、明るい光のヴェネツィアでは色彩が重視された。

貿易で栄えたヴェネツィアでは、絵の注文は商人たちからが主だったので、
宗教画より娯楽性の強い神話の女神が人気があった。
チラシの女性「フローラ」も花の女神である。
このフローラ、私には現実の女性に見える。実際そばで見ると、細かく描かれた衣装、
美しい肌、きりりとした顔立ちに目が釘付けになってしまう。
なんと、これは、ティツィアーノ25才の時の作品!

次、大きな絵、美しい色彩に目を見張る。これは22才の時の作品。
画面いっぱいに描かれたキリストが実際にこちらに来るような迫力。
「復活のキリスト」 1510~12年 ウフィツィ美術館蔵

TitianChrist2.jpg 

このように若い時から、絵の上手さが評判だったティツィアーノなので、肖像画の依頼が殺到した。
神聖ローマ帝国の皇帝カール5世にも気に入られ、騎馬像、立ち姿と描いている。
(展示はなし)

「教皇パウルス3世の肖像」 1543年 ナポリ カポディモンテ美術館
パウルス3世は、英国のヘンリー8世を離婚問題で破門した教皇。
元気あふれていた教皇も年老いて、穏やかになり、しかし眼光厳しく。。
ティツィアーノは、人の特徴をつかむことに卓越していた。

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「ダナエ」 1544~46年 ナポリ カポディモンテ美術館
ギリシア神話の話。美しいダナエに近づくため、ゼウスが黄金の雨になり、
天井からダナエの上に降り注いでいる。黄金の雨は金貨で表されている
ので大粒。実際は大きな絵なので金貨が見えるが、この写真では見えにくい。
ダナエ、キューピッド共に視線の先は、金貨。

TitianDanae2.jpg

「マグダラのマリア」 1567年 ナポリ カポディモンテ美術館

マグダラのマリアは罪深い女だったが、涙を流して悔悛したということで画題によく使われる。
最晩年の作品。ドラマティックな表現がマリアの表情からわかる。

Titan_MagudaraMaria.jpg

ティツィアーノは全部で7点の展示。

他に、ヴェネツィア派の画家たちの絵がいろいろ展示されている。
入ってすぐは、「聖母子コーナー」。
いろいろな画家の聖母子があったが、中でも色彩的に目立っていたのが、
ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子」 1470年頃。 ヴェネツィア コッレール美術館
手摺の向こうに半身の聖母像を置く構図は、ビザンティンのイコンにならったものである。

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ジョバンニ・ベッリーニは、当時、ヴェネツィアで一番の画家だったので、
ティツィアーノは、10代で画家を志し、弟フランシスコと共にベッリーニに弟子入りした。
フランシスコの作品「聖母子とマグダラのマリア」も展示されていた。 

ヤコボ・ティントレット(1518~94年)はティツィアーノの弟子。
「レダと白鳥」 1551~55年 ウフィツィ美術館

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大きな絵。画面いっぱいの斜め構図で、椅子からずり落ちそうなレダ。
ギリシア神話:ゼウスが 美しいレダを誘惑しようと、白鳥に姿を変えて近づいている。
赤の布地と緑色との対比が印象的。


パルマ・イル・ヴェキオ(1480~1528年) もティツィアーノの弟子。 
「ユディット」 1525年頃 ウフィツィ美術館

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敵の将軍ホロフェルネスを酔わせて殺したユディット。首を取り、得意そうな顔。
ふくよかな体格で白い肌、金髪のために残忍さを感じさせない。


パオロ・ヴェロネーゼ(1528~88年)はティントレットと共に後期のヴェネツィア派を
代表する画家で、色づかいが美しい。優美さがある。
「聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ」 1565年頃 ウフィツィ美術館

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ヴェネツィア派は、知らない名前の人が多く、馴染みがないせいか、簡単に見終わって
しまった。ここに挙げた5点のティツィアーノ作品の素晴らしさを改めて感じる。

この記事へのコメント

  • アールグレイ

    ティツィアーノの描くフローラ
    美しいですね。
    女神たちが、ダヴィンチやラファエロと違い、本当に人間に近いように感じます。
    マグダラのマリアも現実味を帯びて見えます。
    近づきがたい聖なる美しさもすごく好きですが、ティツィアーノような画風も魅力的ですね^^
    2017年03月01日 17:24
  • coco030705

    こんにちは。
    ティツィアーノ、上品で美しい絵ですね。やはり天才は若い時から(幼少時)から天才なんですよね、当たり前ですが。(笑)
    ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子」も美しいですね。この間私が姫路で観たバロック展のムリーリョの聖母子とは全く違う絵なので、興味深いです。
    色々な絵画があって、すばらしいと思います。
    余談ですが、先日京都の細見美術館で「鈴木基一展」を観てきました。斬新で独創的な作品の数々に感動しました。この美術館が好きなので、友の会会員に申し込みました。
    2017年03月01日 17:25
  • moz

    ティツィアーノ展に行かれたんですね。
    これは行こうと思って前売り券を買っておきました。TaekoLovesParisさんのおかげで予習が出来ちゃいました(笑)
    ありがとうございます!!
    ティツィアーノがやっぱり秀逸なんですね。7点じっくりと見てきますね。あとティントレットもちょっと興味あります。
    2017年03月02日 06:39
  • yk2

    taekoねーさんのblogにレダが登場すると、お友達の”くっくっく”さんのおハナシと、りゅうさんのユーモアセンス抜群の焼き鳥コメントを思い出して、ついつい笑っちゃう。記事検索して読み返しちゃいましたよ(^^。

    『ダナエ』って、クリムトの絵としてしか知らなくて、それも神話がベースだったなんて全く知りませんでした(汗)。今回taekoさんの書かれてるお話をもう少し詳しく知りたいなと検索掛けて、初めて双方がおんなじテーマだって事に気づきましたよ。またしてもゼウスの魔の手が・・・なんですね(^^;。
    2017年03月03日 09:28
  • Inatimy

    全体的にぽっちゃりした姿が多くて安心します^^。 
    貿易で栄えて裕福な暮らしに飾るのに縁起がいいのかな。
    復活のキリストもがっちり系だし。
    それと服の生地の質感が素晴らしいですね。
    この中で一枚選ぶとしたら「聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ」。
    左に立つ女性、聖バルバラの長く垂らした髪の毛が美しい♪
    2017年03月04日 08:41
  • ふにゃいの

    私も、見ました。
    「ダナエ」はかなり色んな意味で衝撃的な絵でしたね。
    「パオロ・ヴェロネーゼ」は緑色と金色のラインが@@
    ほんと色づかいがよかったと言うか、
    どんな画材?って思いました。
    2017年03月04日 11:16
  • 都美術館には行くんですが右側の公募展ばかり・・・。
    次回はぜひ見たいですな。
    フローラとダナエはエロッティックですね。
    特にダナエは行為そのまんま?
    女神?描かせた人の都合では?
    部屋のどこに飾ったか?客間それとも寝室?
    2017年03月05日 09:06
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます。
    ▲アールグレイさん、じっと絵の前で眺めて、わかりましたが、「眼力」、目の力が強くて魅力的なのでしょうね。口元は上品で眼の魅力をひきたたせていると思いました。フローラは高貴な女性ですが、マグダラのマリアは庶民。多色づかいの縞の服は、囚人服を示し、マリアが娼婦であったしるしなのだそうです。いろいろなことが一枚の絵に織り込まれているので面白いです。

    ▲cocoさん、<やはり天才は若い時から(幼少時)から天才なんですよね>→私もそう思いました。ヴェネツィアなのに、遠く離れた神聖ローマ帝国の皇帝をもパトロンにしてしまう、輝くような魅力の絵なんですよね。
    ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子」、マリアは美しいのに、赤ちゃんのキリストが作りものっぽい、人形みたいで、ちょっと笑ってしまいました。

    <細見美術館で「鈴木基一展」>→ 東京からの巡回ですよね。といっても細見の所蔵品が多い展覧会。この展覧会を見ると、基一のファンになっちゃうでしょ。基一はわかりやすくて明快。色が綺麗。
    細見には1回行っただけですが、こじんまりとした落ち着ける空間ですね。会員制度があるのはいいですね。活用なさってください。

    ▲mozさん、チケットを持っていらっしゃるなら、必ず行きますよね。
    ヴェネツィア派に馴染みがないので、ティツィアーノに関心がいってしまいました。
    ティントレットの「ディアナとエンディミオン」、大きくて迫力のある美しい絵です。神話なのですが、動きを感じる絵でした。エンディミオンの足が中央にどんとあるのが、気になりましたが。
    2017年03月05日 11:58
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます。
    ▲yk2さん、レダ、ユーディット、サロメ、ライオンが、ある人の想起集合になったのは、りゅうさんとyk2さんのご尽力で。。。焼き鳥コメント、上手いですよね。

    「ダナエ」の絵は、金貨がつきもので、それじゃあまりに強欲と思ったのか、天使とか侍女が登場するものが多いです。クリムトの「ダナエ」は、クリムトらしいフロイド的解釈のダナエ。陶酔状態。金貨が装飾的でキラキラと美しいですね。ティツィアーノのダナエも金貨にうっとり。ふたつの絵の違いは年代。ルネサンスとウィーン分離派のクリムト。
    ゼウスは変身が得意技ですね。

    ▲Inatimyさん、同感、みなさん、肉付きがいいですよね。美への意識は年代で違うから、この時代は、男女ともに筋肉系がよかったんですね。
    教皇パウルス3世のケープのビロードの質感もすばらしいし、フローラの赤い刺繍のケープは、当時、ヴェネツィアで流行っていた織物だそうです。
    「フローラ」でも、「聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ」でも、ヘアスタイルが凝っていてすてきですね。それを再現する描写力にも感服します。
    2017年03月08日 01:38
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます。
    ▲ふにゃいのさん、いらしたんですね。ルネサンスの壮大な絵を見ていると、だんだん歴史にも興味が出てきます。もっと歴史や神話がわかったら、絵の意味も深いのかしら、って思います。ダナエも金貨がゼウスって?と不思議ですもの。
    パオロ・ヴェロネーゼの絵は、大きくてわかりやすかったですね。色彩が金色に輝くかのようで、赤ちゃんのキリストもかわいくてほっとしました。最初の方の、昔の赤ちゃんは、私には可愛くみえなかったので。

    ▲匁さん、公募展は匁さんは外せないでしょう。私もここで、匁さんの絵を拝見させて頂きましたよ。
    ダナエを飾った場所はもちろん寝室です。教皇と縁続きのお金持ち、ファルネーゼ公の依頼で描いたそうです。ファルネーゼ公はこういうのがお好みかな?と描いたのかしら?金貨にうっとりしているのか、背後のゼウスにうっとりしてるのか、匁さんの解釈では、降りてくるゼウスとのことを想い、うっとり、ですね。評判がよかったので、少しバージョンが違うものがあるそうです。
    2017年03月08日 09:58
  • desire 

    こんにちは、
    私も『ティツィアーノとヴェネツィア派展』を見てきましたので、画像と鑑賞レポートを読ませていただき、この美術展で作品を見た感動を再体験することができました。色々素晴らしい作品を見ることができましたが、特にティツィアーノ・の『フローラ』では、つややかな肌の質感が、柔らかい光に照らされて浮かび上がってくる美しさに感激しました。涙を浮かべ天を仰ぐ『マグダラのマリア』は大変美しく、マリアの敬虔さと美しい女性の適度の官能的側面がよく調和に魅力を感じました。

    私もこの美術展を見て、代表的な作品の魅力とヴェネツィア派絵画とフィレンツェやローマのイタリアルネサンスとの違いを考察してみました。読んでいただけると嬉しいです。内容に対してご意見・ご感想などコメントをいただけると感謝いたします。
    2017年03月25日 13:34

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