2年前の春、パリからの帰りの飛行機内で手に取ったエールフランスの機内誌
で、パリで「カイユボット兄弟展」をやっていると知った。え~っ、知ってたら
行ったのに、、と、とても残念に思った。
左の絵は、ギュスターヴ・カイユボットが5歳下の弟マルシャルを描いた「バルコニー」。
マルシャルは作曲家でピアニスト。フォーレ、サンサーンス、ドビュッシーと親交があり、
暇をみつけては写真を撮っていた。右がマルシャルが撮った写真で、
「カルーゼル広場のギュスターヴ・カイユボットと犬のベルジェール」。
後ろに見えるのは、ルーヴル宮。
兄が画家、弟が音楽家&写真家のカイユボット兄弟は、とても仲がよかった。
今ではギュスターヴの方が有名だが、当時はマーシャルが有名だった。
今回はマーシャル没後100年を記念して、カイユボット家の子孫から写真や
絵を借りての展覧会である。
兄弟は、オスマン男爵の大改造計画で近代化がすすんでいたパリに焦点を
あて、当時の都会の暮らしを兄は絵で、弟は写真で捉えている。
ギュスターヴの絵「バルコニー」は、広角レンズで撮った写真のようなパリの
街である。ギュスターヴの絵は写真的要素が多いが、マルシャルが写真を
始めたのは、絵が描かれたのよりずっと後の年代であるから、ギュスターヴ
の絵のほうが先行していたと言える。
といった説明を読みながら、機内誌をもらって帰って来た数週間後、
Inatimyさんが、カイユボット展にいらした記事を書いてくださった。
日本にも巡回してほしいと思っていたら、ようやく来ることになった。
とはいえ、記事にするのが遅く、もう会期はあと数日。
カイユボットって?という人も多いと思う。印象派に属していて、ドガ、マネ、
モネやルノワールらと親交があり、大富豪だったので、彼らの絵を購入し、
経済的に支えていた。それらのコレクションはフランス政府に寄付され、
オルセー美術館の所蔵品となっている。大富豪ゆえ絵を売る必要がなか
ったカイユボットの作品の多くは、今でも子孫が持っている。
その辺りのことは、yk2さんの記事に詳しく書かれています。
カイユボットは、パリ郊外のイエールに広大な土地の別荘を構え、ボート遊びを
楽しんでいた。自分でボートの設計までするほどだった。
もちろん、ボート遊びの絵をたくさん描いている。
ちらしに使われている絵は「ぺリソワール」1877年カヌー遊び。
色の対比が美しい広角の景色。交差するオールの水面への反射が面白い。
上の絵は、「シルクハットの漕手」1877年
シルクハットを頂点とした三角形構図。お洒落な服装。光を浴びた水面の
さざ波が美しい。
「ジュヌヴィリエの平野 黄色い畑」 1884年
モネの絵のような広々とした平野。
これとは別に、菜園を描いた絵はピサロのようだった。
郊外での光あふれる絵だけでなく、都会パリのようすを描いた絵もたくさん
あった。
「ヨーロッパ橋」 1876年
遠近法を強調した絵。ヨーロッパ橋はサン・ラザール駅構内にかかる橋。
大きな絵なので、右の方、橋の下に機関車の一部が見える。
欄干に頬杖をつき橋の下を眺める男。こちらに向かって歩いてくる裕福な
身なりの男女。向こうに歩く犬。
裕福な身なりの男女は、下の絵にも登場する。
「パリの通り 雨」1877年 たぶん左奥がオペラ座。
女性の顔が見えない程の大まかな筆づかいで、雨に霞むさまを表現。
濡れた路面の描き方もいい。これはそれほど大きくない絵だが、シカゴ
美術館にある「雨の日」は、人物の顔がはっきりしている大きな絵。それ
を見たくて4年前、シカゴに行ったがあいにく貸出中だった。
カイユボットは、富裕層を描くだけでなく、労働者も鋭く観察して描いた。
「建物のペンキ塗り」1877年
室内画も多く描いている。
「室内 窓辺の女性」1880年
カイユボットは後姿を好んで描いている。
「ピアノを弾く若い男」1876年
これはブリヂストン美術館が最近購入した作品。
モデルは、弟マルシャル。弾いているピアノと同じ型、エラール社の1877年製の
ピアノもこの展覧会に展示されていた。
「昼食」1876年 第二回印象派展に出品した作品。(写真なし)
奥に執事に給仕されている母、手前にナイフ・フォークで食事中の弟ルネ
(この絵の数か月後に亡くなった)というカイユボット家の昼食のようす。
室内は豪華で食卓の上のいくつものガラス器が美しい。
そして、弟マルシャルの写真は100点、展示されている。
家族、庭園、ヨット、パリの風景など。特にパリの風景、雪景色が私には
興味深かった。
この記事へのコメント
pistacci
上流階級のゆとりが感じられました。
coco030705
今年10月に行った「カイユボット展」、Taekoさんの解説で再び楽しくみせていただきました。いい展覧会でしたね。カイユボットのような人の存在が印象派を支えていたんですね。しかも自分の絵もすばらしいですよね。弟の写真もよかったですね。すごい芸術家兄弟だと思います。来年もぜひブリジストン美術館に行きたいものです。
匁
そんな感じです。
パリの話題は久しぶりですね。やっぱり
TaekoLovesParis さん
には一番お似合いでは!。そろそろお出かけ?
チョコローズ
素敵。私も「あのチョコが食べたくてパリに行った」・・・とかしてみたいな。
カイユボット、先日「モネ展」を観に行ったので覚えました。
彼がいなければ、印象派に属する画家たちは作品も人も増えなかったのかもしれない?
芸術は富豪がいなくてはやはり育たないんですね。
・・・と初心者の感想です。
今年もたくさんの絵画をご紹介いただき、お勉強させていただきました。
ありがとうございました。
Inatimy
パリで開催されたものとまた少し違う構成で、そそられました。
「ジュヌヴィリエの平野 黄色い畑」、キレイな色合いですね。
冬の今の時期に見ると、ワクワクして来るような、なんというか春が待ち遠しい気分。
ブリヂストン美術館が最近購入された「ピアノを弾く若い男」も初めて見る作品で、
マーシャルが音楽家だったことが分かる上、床や壁の模様、ピアノに映った両手や鍵盤まで
見事ですよね。
雪景色の写真は、オペラ座かコンコルド広場のかしら。
展覧会の時に買った冊子で見たんですが、私もパリの雪景色は興味深かったです。
2010年の12月はほぼ1カ月氷点下で雪が多く、
まさかパリでこんなにも寒い目に会うとはと思ってたら、昔もそんな日があったのだと・・・。
TaekoLovesParis
▲pistaさん、10月に「パッリー」でしたものね。パリの街を描いた絵は、100年前は、
こんなだったのね、とか、、ここは今も同じ、とかで、私も興味が尽きませんでした。
オペラ座のちょっと奥が、ギャラリー・ラファイエットで、さらにそこから数分がヨーロッパ橋の下、モネが駅と列車の絵を描いてる「サン・ラザール駅」ですものね。
どの絵でも上流階級の家のインテリアは重厚ですてきですね。カーテン壁紙、床、
家具、食器、どれもほしいです(笑)
▲cocoさん、カイユボットはあまり有名でないから、チラシに「印象派 重要人物」と
書いてあるのに、主催者のご苦労が伺えました。パリらしいおしゃれな雰囲気の展覧会でしたね。cocoさん、7月、10月と2度もブリヂストンにいらしたのね。見やすい美術館で、ティールームも落ち着いていいでしょ。
▲匁さん、そうなんですよ、カイユボットはそんなに有名じゃないけど、ルノアール、マネ、ドガなど印象派の名画をたくさんオルセー美術館に寄付した人なんです。スポンサーですね。パリは来年3月に行く予定です。
▲チョコロさん、<あのチョコが食べたくてパリに行った>に笑いました。チョコは、行かなくても、東京でバレンタインの時、世界中の注目のものが集まりますね。リヨンのベルナシオンとか。
モネ展にいらしたんですね。芸術家は売れるまで長くかかる場合が多いから、サポーターが必要ですね。昔だったら、宮廷画家って皇帝が支えてたけど、今は、キップのいい画商さんも減ってるし、大変でしょうね。
記事のこと、おほめ頂きありがとうございます。私もチョコロさんのスイーツ記事を参考に、次、買う目標を決めています。
yk2
>チラシに「印象派 重要人物」と書いてあるのに、主催者のご苦労が伺えました
たしかに・・・(^^;。
「もし彼がいなかったとして、オルセーはこれほど魅力的な美術館と成り得ただろうか?」などとチラシでやってしまうと、カイユボット自身の画業よりも、パトロン的な部分や寄贈者としての貢献がより強調されちゃいますものねぇ。
TaekoLovesParis
Inatimyさんがいらしたパリでの展覧会の方が展示数が圧倒的に多いです。(当然ね)。来年4月5日から7月20日までカヌやボートの絵が描かれた別荘イエールでカイユボット展が開催されるんですって。行けたらいいな、と思ってます。
冬は春が待ち遠しい季節。黄色の温かみに憧れますね。
2010年の12月、氷点下は寒いですよね。その数年前、私がストラスブールのクリスマスマーケットに行ったときも氷点下で寒かったのを思い出しました。
雪景色の絵は、「オスマン通り」でしたね。ギャラリー・ラファイエットからジャックマール・アンドレ美術館へ行く広い道がオスマン通り。「見下ろした大通り」の絵もオスマン通りでしたね。カイユボットはオペラ座に近いスクリブ通りにも住んでたから絵の描かれた場所は、オペラ界隈が多いみたいです。
雪の日の絵は、上から見下ろした構図で街路樹と人間が小さく見えるのが面白いと思いました。
ねじまき鳥
よいお年をお迎えください。
baby_pink
今年も沢山お話しができて本当にうれしかったです♪
おいしい。綺麗。。びっくり驚きに、ふんわり優しい気持ち。
色んな事を共感できて幸せでした。
毎年思うけど、こうやって縁あって巡り逢えたことで、どれだけ
沢山の微笑をいただけたことか..感謝の気持ちでいっぱいです。
忙しない年の瀬だけど、その時間はとても愛おしくて年明けないで!
ってちょっぴり寂しさも感じたり。笑
こんな事言ってるわたしは、まだまだ幼いなぁ。。って自分でも恥ずかしいくらい。
taekoさん、どうぞ笑顔いっぱいの新年をお迎えください^^
そして、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
GON
今年もたくさん楽しませていただきました♪
ブログを維持することは大変だと思いますが、
ぜひ来年も継続してください。
TaekoLovesParis
カイユボットのパトロンとしての役割もすばらしいけれど、やはり、絵の良さが光ってますね。でも、絵を売る必要がなかったから、絵が人から人へと渡ったり、オークションにかかったり、と流通することが少なかったので、どこの美術館にも作品があるわけではないのが残念です。だから、ボストン美術館で、カイユボットのマルシェに並んだ果物の絵を見たときは、うれしかったです。
TaekoLovesParis
▲ねじまき鳥さん、カイユボット、なかなかオシャレな画家でしょう、私は結構、好きなんです。覚えてくださいね。
来年が良い年でありますように。
▲pinkちゃん、私の方こそ、pinkちゃんがいつも温かいコメントをくださるのがうれしかったです。pinkちゃんは気持ちがやさしい上にたくさんの言葉の引き出しを持っていらっしゃるから表現がすてきです。画像認証の文字をなおしてない時は、もう、コメントできないかと思わせてしまってごめんなさいね。今は、紅白、ちょっと飽きて、ジルベスターコンサートでアイーダの「凱旋行進曲」見てます。あと数分で今年も終わり、新しい年には新しいことが待ってるような気がします。
来年もよろしくお願いしますね。
▲GONさん、ほめてくださってありがとう。私はGONさんの写真が好きなんだけど、なかなか更新されなくて、ちょっと残念ですが、余裕のある時にお願いしますね。
来年がGONさんにとって良い年でありますように。
moz
でも、ご紹介していただいて、カイユボットに弟がいたとか色々なことを知ることができました。カイユボット見に行けばよかった ^^;
それに、やはり、写真の構図にとても似ているところがありますね。はっていただいた絵を見ると、へーぇって思います。絵ってやっぱり良いなぁ~。
お休みはあと二日ですが、何か見に行こうかな ^^
TaekoLovesParis
カイユボットの絵の構図は上から見る(俯瞰的)だったり、極端な遠近法の明確な
三角形だったりで、写真が趣味特技のmozさんには、参考になるでしょ。
私は、1月は、東急bunkamuraの「シャヴァンヌ展」と、上野の博物館に行こうと
思ってます。よかったのは初めて行った富士美術館の「光の賛歌、印象派展」ですが、八王子からバス300円と、すごく遠いんです。