「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」展

 小学生の時、切手集めで知ったヨーロッパの小さな国リヒテンシュタイン。
その国は、5世紀にわたる世界有数の美術コレクションを持っており、それらが、
今、国立新美術館で公開されている(12月23日まで)

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 通常、リヒテンシュタイン・コレクションは、ウィーンにある夏の離宮で公開(予約制)
されているので、国立新美術館でも宮殿の部屋ふうな作りで展示をしている。
だから、「ようこそ、わが宮殿へ」とパンフに書いてあるのだろう。
この絵は、ルーベンスが描いた娘クララの肖像。

 エントランスのブロンズの彫刻を見ながらホールへ。ホールは大きい!展覧会用に
設えた天井に豪華なバロックの天井画が配置してある。壁には大きな絵とタピストリー。
さらに家具調度品、彫刻も置かれ素晴らしい。壮麗なバロックサロン。
小さめの絵もある。「あら!」と目をとめたのは、ラファエロの「男の肖像」。若い時の
作品だけあって、師ペルジーノ風。背景に景色が描きこまれ、4分の3正面向きは、
モナリザにも通じる。シンプルだが印象的なのは、目が鋭いからだろう。

RafaeroPortrait.jpg MassysTheTaxCollection.jpg

こちらを見るずるがしこい目つきに思わず笑ってしまったのは、右の絵。
クエンティン・マセイスの「徴税吏たち」。机の上には硬貨と宝飾品。税として、
集めたものだろう。赤い帽子の財務官の帳簿を指さしながら、「そこ、少なく
書けよ」と悪だくみ?

パンフにも使われているように、ここの美術館は、ルーベンスの作品をたくさん
持っているので、今回10点が来て、まとめて展示されていた。
「占いの結果を問うデキウム・テス」
3m×4mの大きな絵。
ローマの司令官デキウム・テスが占い師たちに決戦を前に、犠牲獣の内臓で
運命を占ってもらい、自分が戦いで死ぬと宣告された場面。
大きな絵なので、皿の上の内臓(気持ち悪い)、悪い結果を宣告する神官の困惑の表情、
テスの驚きと動揺が明確に見てとれる。


RubensDeciusMus1.jpg

もう一枚、デキウム・テスの物語から「勝利と美徳」の大きな絵があり、
ルーベンスの部屋も豪華で圧巻。
デキウム・テス物語は連作なので、陶板があり、それを見ると物語が
わかり面白かった。ルーベンスは他に、マリアがキリストの目を閉じている
場面の「キリスト哀悼」もあった。静かで厳粛な雰囲気に息をのまれた


RubensChrist1.jpg

見ていると、ルーベンスはバロックを代表する画家であることがよくわかる。
絵の世界で傑出しているレンブラントは、ルーベンスより30年ほど後の人。
下は、レンブラントの「キューピッドとしゃぼん玉」1634年

Rembrandt1.jpg

17世紀フランドルの絵の部屋も巨匠の作品が勢ぞろい。
肖像画で有名なファンダイクの「マリア・デ・タシスの肖像」
この絵は、別のパンフレットに使われていた。


Vandike2.jpg

ヤン・ブリューゲル「若きトビアスのいる風景」、
ペーテル・ブリューゲルの「人口調査」
フランツ・ハルス「男の肖像」、ダウのだまし絵「ヴァイオリン奏者」

次の部屋は18世紀新古典主義で、カナレットの「ヴェネティア・サンマルコ広場」
の前をさっと通りすぎ、
マリー・アントワネットのお抱え画家だったエリザベート・ヴィジェ=ルブランの
「虹の女神イリスとしてのカロリーネ・リヒテンシュタイン侯爵夫人」1793年
侯爵夫人が素足で舞うのだから当時は斬新な絵だったに違いない。

LubranIris1.jpg


当時人気の肖像画家ヴァルト・ミュラーの
左:「リヒテンシュタイン候女2歳」   
右:「幼き日のフランツ・ヨーゼフ1世」 後に「エリザベート」を妻にする王様
皇室ゆかりの人たちの肖像画があるのも、リヒテンシュタイン侯爵家ならでは
のコレクション。

rihiten.jpg furanzJoseph1.jpg
 
とても立派な展覧会だった。豪華な宮殿を模して作った会場が雰囲気づくりに
一役買っていて華麗さが印象に残る。       ☆おすすめです。

この記事へのコメント

  • coco030705

    こんにちは。
    すばらしい展覧会ですね。さすが東京です。
    レンブラントの「キューピッドとしゃぼん玉」は、レンブラントの作品としては珍しい絵画のような気がしますが、いいですね。
    「虹の女神イリスとしてのカロリーネ・リヒテンシュタイン侯爵夫人」はなんと美しい絵なんでしょう。それと、「リヒテンシュタイン候女2歳」もなんてかわいい寝顔なんでしょうか。
    素敵な展覧会をTaekoさんの解説付きで垣間見せていただき、ありがとうございました。
    2012年11月22日 18:07
  • hatsu

    『リヒテンシュタイン候女2歳』、
    柔らかそうな髪の毛とお肌、ほんわかした雰囲気が素敵ですね^^
    2012年11月22日 19:08
  • ルビー

    好みの展覧会です!テレビで山田五郎も勧めてました。名古屋は来ないので、3月の京都に行こうかな。
    ルブラン、こんな絵も描いてたんですね。
    2012年11月22日 19:15
  • pistacci

    見ごたえのある展覧会でしたね~。私も先日行ってきました。
    対称的に飾られているバロックサロンでは、対のものを見比べてみたり、
    天井画をおぉぉ、っと、見上げてみたり、楽しめますね。
    ルーベンスの迫力ある立体感にもあらためてすごいなぁ、って
    しみじみ眺めていたりして、随分時間をかけた一日でした。
    エリザベート付きの女官にもリヒテンシュタインという名の方が登場するのですが、
    きっと縁の方なのでしょうね。
    時間が作れたらもう一回見に行きたいなぁ、なんて思ったのでした。
    2012年11月23日 01:12
  • ぶんじん

    侯爵さんとは言え、これだけのものを集めるのは大変ですよね。絢爛さの中に執念みたいなものが潜んでいるのでしょう。
    2012年11月23日 09:15
  • yk2

    うふふ、ハプスブルクに縁が深いだけあって、pistaさんもしっかりご覧になられてますね(笑)。こうした借り物の展覧会で、天井画を天井画として設置して見せてくれる様な展示手法はけっこう珍しいですよね。その点だけでもかなり面白い展覧会でした。

    それにしても、欧州の上流貴族はどうして“生首もの”の絵を好むんでしょうねぇ?。今回もしっかり“ユディット”と“ゴリアテの首を持つダヴィデ”の2枚が。サロメ大好きなtaekoねーさんの生首好き(爆)も、貴族趣味ならでは、ってことデスカ?(笑)。
    2012年11月23日 22:33
  • Inatimy

    パンフの迫力ある顔のアップの絵に、「ようこそ、わが宮殿へ」の台詞が重なって、
    すっかりこの顔の人物が宮殿の主かと思いきや、男の子でもなく、
    ルーベンスのお嬢さまだったとは・・・。
    内臓占い・・・いったい何がどうなら戦いでの死という結果が出るのかも気になるけど、
    大きな絵ならお皿の内臓もリアルに見えちゃうんだろうな・・・怖いもの見たさで
    顔を覆った指の隙間から見ちゃうかも。
    2012年11月24日 01:39
  • チョコローズ

    とっても優雅で華やかな展覧会ですよね。
    ここでしっかりお勉強できたので、会期中にぜひとも行きたいです。
    2012年11月24日 20:40
  • 流石に宮廷に飾るまたは所蔵する絵
    だけあって、豪華で優美ですね。
    「油彩画は大きな宝石だ」と、
    聞いたことが有りますが、
    その物ズバリですね。
    そこに、Taekoさんが歩く姿は
    まさに「高貴な絵」になりますね。(ウフッ!)
    2012年11月25日 08:08
  • kazu-m

    僕も先月観に行ってきました。
    リヒテンシュタインを始めて知ったのは、高校の時に有る雑誌に載っていた、”牢屋に鍵がかかっていない国”という紹介からでした。
    一昨年のスイス旅行も、ボーデン湖からリヒテンシュタインを経て、北イタリアのコモまでのツアーにしようか散々悩みました。
    アルプスの少女ハイジも、リヒテンシュタインの近くでしたね。
    絵もどれも素晴らしかったし、リヒテンシュタインの歴史にも触れられて楽しかったです。
    2012年11月26日 18:30
  • angie17

    切手!
    私も小学生の時、夢中で集めました。
    懐かしいわぁ~。
    2012年11月27日 00:14
  • baby_pink

    カロリーネ夫人..美しいですね.。✿.。
    幸せに微笑む瞳に吸い込まれそうです。
    そして、リヒテンシュタイン候女2歳の
    すやすや気持ちよさそうに眠る姿.。
    くるくる柔らかそうな髪にピンクの頬っぺた。
    ほんとに愛らしいですね。

    ポッと温かい優しい気持ちになれます^^
    2012年11月29日 07:49
  • りんこう

    切手ですよね。リヒテンシュタインの切手。
    リヒテンシュタインを訪れた時、僕も切手を記念に買ってきましたよ。
    普段ははウィーンで公開されているものなのですね。知りませんでした。
    近々行ってこようと思っています。
    2012年11月30日 00:16
  • りゅう

    「リヒテンシュタイン候女2歳」かわいいですね♪
    ぷくぷくのほっぺをつっつきたくなります。
    この展覧会、コレクションの質はもちろんですが、
    天井画の展示がとても評判になっているようですね。
    観に行けるかな~、行けるといいなー、行けなそうだなぁ・・・(^_^;)
    2012年12月03日 01:25
  • moz

    この展覧会行きたいのですが・・・23日までなんですね。 ^^;
    今年は結構見逃しているのが多いんです。ラファエロ、ルーベンス、良い絵が来てますよね。天井の絵もみたいです。
    フェルメールの絵たちに圧倒されているせいもあって・・・、どんな絵を見ても、あまり感激しなくて、しばらくはダメかもしれない 笑
    でも、見てみたい展覧会です。
    2012年12月09日 17:31
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲cocoさん、キューピッドが今にも画面から飛び出して来そうな身構えですね。
    何か話しかけそうな表情。一瞬をとらえるのがみごとで惹きこまれます。
    リヒテンシュタイン侯爵夫人の背景の空の青さは印象的でした。天に舞う羽衣の
    ようですよね。そして2歳の候女は、本文に書かなかったけど、このあと、病気で
    亡くなってしまうという説明を読んで、涙が出そうでした。この寝顔で皆に幸せを与えて、早くに天に召されてしまうなんて、、なんという運命。
    cocoさんに最初にコメントをいただき、さらにほめていただいて、うれしかったです。

    ▲hatsuさん、巻き毛とふっくらしたほっぺがかわいいですよね。それなのに、
    上のcocoさんへのコメントで書いたけど、亡くなってしまうとは、なんと過酷な運命。。

    ▲ルビーさん、ヨーロッパの貴族、王室ですもの、ルビーさんの好みですよね。
    山田五郎さんが番組ですすめていたのですか。納得です。この後は京都なんですね。京都でも天井画をこうやって見せるんでしょうね。パネルを作ってあるから、
    流用できそうですね。ルブランはフランス革命の後、いろいろな国に行ったそうですが、リヒテンシュタインでも肖像画を頼まれたんですね。かなり自由な肖像画だから、ルブランが自分の好きなものを描ける時代になっていた、とわかりますね。

    ▲pistaさん、いらしたんですね!バロックサロンの対の彫刻たちの「美徳」と「悪徳」が特に気になりました。悪徳の鞭で打たれてるかのような表情、忘れられません。金色の聖セバスティアヌスも苦しそうでした。極限の表情。美しいものより苦しそうなものに目が行ってしまったのは、普段、美しい彫刻のほうを多く見てるからでしょうね。
    <エリザベート付きの女官にもリヒテンシュタイン>→そうそう、プログラムで確かめてみたら、ちゃんと配役が出ているほどの役でした。当時、勢力を持っていたと
    わかりますね。だから、美術品コレクションもこれだけ豪勢なんですよね。
    いい展覧会でしたね。
    2012年12月15日 09:41
  • TaekoLovesParis

    とても遅くなりましたが、nice&コメントありがとうございます。
    ▲ぶんじんさん、リヒテンシュタイン家は、初代コレクターのカール1世が非常に
    教養ある人物でタピストリー、家具、食器、絵画などを注文して作らせ、その後代々、芸術擁護が家訓だったそうです。小さな国なので、特徴があることも大切だったのでしょうね。

    ▲yk2さん、「幼き日のフランツ・ヨーゼフ1世」の絵の前では、私も「お~」と
    思ったくらいですから、実際にシェーンブルン宮殿を訪問なさったpistaさんには、ストライク!だったことでしょう。とっても頭のいい人だったとpistaさん記事で読みましたが、やはり子供の頃から利発そうですね。

    <欧州の上流貴族はどうして“生首もの”の絵を好むんでしょうねぇ?>
    → 当時、歴史画、宗教画を理解するためには、聖書への知識が必要だったから、こういう絵を注文し飾ることは、博学で高貴であるとひけらかしていること
    だったらしいです。悪徳に勝利する美徳の意味あいもあってユディット対
    ホルフェウス、ダヴィデ対ゴリアテの絵が注文されたのでしょう。生首があれば、
    退治して勝ったというドラマの結末がはっきり誰にでもわかる。桃太郎の鬼退治、日本一の扇を広げて鬼を足の下に敷いている絵も同じ部類かと、、飛躍しすぎ?

    ▲Inatimyさん、実は私もこの子が王子様?ちょっと庶民的だけど、って思ったんですよ。そしたら、女の子だし、ルーベンスの娘。
    内臓占いをInatimyさん、そっと見ちゃうの?(笑)占いって、大げさな儀式で、こんな判定で当たる?この時代に生きてなくてよかったって思っちゃいました。

    ▲チョコロさん、この展覧会にいらしたかしら?この宮廷ではどんなお菓子がふるまわれていたのでしょうね。

    ▲匁さん、からかわないでくださいよ~。高貴にはほど遠いんですから。
    でも、高貴なワインは飲んでみたいです。
    2012年12月30日 00:30
  • TaekoLovesParis

    とても遅くなりましたが、nice&コメントありがとうございます。
    ▲kazu-mさん、昔からリヒテンシュタインには、馴染みがおありだったんですね。
    それならば遠路はるばる観にいらっしゃる価値がありますね。実際、良い絵がたくさんありましたね。
    見終わって、リヒテンシュタインがますます身近に感じられるようになられたことでしょう。

    ▲angieさん、やはり集めていらしたんですね。流行りましたよね。
    私はデパートの趣味の切手売場で、古い記念切手を買ってもらった覚えがあります。

    ▲pinkさん、カロリーネ夫人の舞姿、ふんわりと山の上、雲の中。下にある山は、リヒテンシュタインの領土なんでしょうね。皇女2歳の愛らしさ、品の良さから、高貴な生まれであることが伝わってきますね。このあと、すぐに病気で亡くなってしまうんですって(涙)
    2012年12月30日 00:44
  • TaekoLovesParis

    とても遅くなりましたが、nice&コメントありがとうございます。
    ▲りんこうさん、<近々行ってこようと思っています>→ リヒテンシュタインに
    いらっしゃるんですか?それともウィーンへ?

    ▲りゅうさん、最後の一行の逡巡ぶりが、よかったです。
    皇女は、ふっくらバラ色ほっぺがかわいいですね。
    天井画を見せるために仮設で天井を作っても、実際の絢爛さには及びません。宮殿は本物を見るのがいいです。お休みがとれて、いつか本物を見にいらっしゃれるといいですね。

    ▲mozさん、フェルメールとはちょっと違うタイプの絵でした。来年はバロックの
    巨匠ルーベンス、ラファエロなどの展覧会。そしてヴェルディ、ワーグナーの生誕
    200年、楽しみです。
    2012年12月30日 00:55
  • 履歴書の添え状

    とても魅力的な記事でした。
    また遊びに来ます!!
    2014年04月29日 18:09

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