エルミタージュ美術館展

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 16日までと会期の終わりが近い「大エルミタージュ美術館展」に行った。
ロシアのエルミタージュ美術館は、パリのルーヴル、NYのメトロポリタンと並んで、
世界三大美術館と言われている。18世紀ロシアに君臨したエカテリーナ2世(女帝)
のコレクションで、質の高さでは定評がある。

2006年秋にも、都美術館で、「大エルミタージュ美術館展」は、開催されているが、
所蔵品が多いから、その時の絵と重なることはない。

今回は、16世紀から20世紀まで、各世紀ごとに一部屋を使っての展示だった。
私の気に入ったものをご紹介。
(1)16世紀、ルネッサンス
1、スケドーニ「風景の中のクピド」
矢を入れた籠を木にかけて、次は誰に弓矢をひこうか、と考えているクピド
(キューピッド)。じっとこちらを見る表情が愛らしい。
私がスケドーニの素晴らしさを知ったのは、2007年のパルマ展。「キリストの
墓の前でのマリアたち」  の色づかいと表現力に圧倒された。

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2、レオナルド・ダビンチ派「裸婦」
この絵が、エルミタージュ美術館にはいったときは、ダビンチ本人の作品と考えられて
いたのだが、研究が進むにつれ、本人ではなく弟子の作品と推測されている。

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(2)17世紀 バロック
3、ルーベンス「虹のある風景」
ルーベンスは風景画や宗教画が多い。
人間と周囲の自然環境の穏やかな調和、それは虹のようにはかない、
ということ描いている。
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4、レンブラント「老婦人の肖像」
この表情に思わず足を止めてしまった。顔の皺、疲れとあきらめ。
ごつごつした手。どんなご苦労があったのでしょう、と思ってしまう。

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(3)18世紀 ロココ
ぱっと明るく、大きな絵に惹かれる。
のびやかな手足。磁器のような肌。透明感のある画面。
5、ピエール=ナルシス・ゲラン「モルフェウスとイリス」
モルフェウス(夢の神)をイリス(虹の神)が、起こしている。
モルフェウスはモルヒネの語源なので、なかなか起きないようす。
天使がイリスの傍らで、イリスを応援している。
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6、ジョシュア・レノルズ「ヴェヌスの帯を解くクピド」
広告にも使われている割合大きな絵。
ジョシュア・レノルズは、英国を代表する肖像画家で、ロイヤルアカデミーの初代会長。
英国で名士の彼は、サンクトペテルブルグにエカテリーナ2世を訪ね、ギャラリーに
英国画家の作品が一枚もないのは、如何なものかと指摘した。結果、レノルズに神話
のヘラクレスをテーマとする巨大な絵の注文が来た。レノルズは、それと同時に、
この作品を、エカテリーナ2世の愛人で共同統治者であったポチョムキンのために
制作したのである。ヴェヌスはヴィーナスのことであり、レノルズ作品の中でも、特に
人気がある絵。

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7、シャルダン「洗濯する女」
シャルダンは、フランスの日常生活、特に台所まわりを多く描いている。
17世紀オランダ絵画の影響が見られるが、シャルダンの絵には柔らかな詩情がある。
ルーヴルには、シャルダンの小品がずらっと並んでいるコーナーがあり、見ていると、
時間が止まったような画面から、当時の生活が伝わってくる。

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8、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン「自画像」
マリー・アントワネットのお抱え画家だったルイーズ・ルブランの自画像は、
何点かあるが、どれも美しい。フランス革命勃発後は、イタリア、オーストリアに
亡命、エカテリーナ2世の側近のすすめで、ロシアに移住し、宮廷でたくさんの
肖像画を描いた。

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(4)19世紀 ロマン派からポスト印象派まで
9、ジャン・=レオン・ジェローム「仮面舞踏会後の決闘」
幻想的な景色の中で、事件が起きている。何があったの?と絵を細かく見ながら、
謎解きをした。
仮面舞踏会とタイトルにあるので、ピエロの仮装の人が、去って行くインディアン
の仮装の人と決闘し、負けた。インディアンの介助役はアルルカンの衣装。
インディアンがすごすごと、殺したことを後悔するかのような足取りで去り、
アルルカンは、それを慰めるかのようだ。雪の上、捨てられた剣の横に散らばる
インディアンの羽根から、決闘がすさまじかったことが伺える。

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10、セザンヌ「カーテンのある静物」
みごとなバランスゆえに、セザンヌの最高傑作のひとつと言われている作品。

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11、モーリス・ドニ「母と子」
聖母子のイメージの母と子。母(妻マルト)の縦縞のドレスの柔らかさと赤ん坊を
ドアや絵の額縁の直線が引き立てている。

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12、フェリックス・ヴァロットン「アルク=ラ=バタイユ風景」
光琳の「紅白梅図屏風」のような水の流れに驚く。
丸く表現された木々からは、温かみが感じられ、小さくて見えないが、左にいる
牛たちがのんびりと草を食んでいる。初夏の色合いがさわやか。

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(5)20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀
マティス「赤い部屋(赤のハーモニー)」 (展覧会ちらしの絵)
最後の部屋を飾るのは、マティスの横220㎝の大きな絵。
しかも画面いっぱい赤。壁紙もテーブルクロスも同じ模様で埋め尽くされている。
赤と緑という大胆な配色ながら、食卓は暖かな雰囲気。
窓から見える木やナプキンの白が効果的に思えた。

マティスの代表作がなぜ、ロシアにあるのかというと、パリ時代、まだ売れて
いなかったマティスの絵を評価し、買ったのはロシア人のコレクター、シチューキン
とモロゾフだからだ。その後共産主義になったロシアで、彼らのコレクションは、
国有財産となり、エルミタージュ美術館におさめられた。

[黒ハート]質の高い作品が勢ぞろいなので、とってもおすすめです。
私は、時間がなくて、ゆっくり見れなかったので、もう一度行きたいと思っています。

りゅうさんの記事では、ここにない絵の紹介があります。
あわせてご覧になると充実することでしょう。

この記事へのコメント

  • baby_pink

    Taekoさん、こんにちは✿

    どの作品もそれぞれに、個性..そしてなんとも言えない魅力
    があって吸い込まれそうです。。素晴らしいなぁ。。✿
    深味のある赤や青など、なんとなくみていると心落ち着くのは
    なぜでしょうか。
    今の梅雨の季節、美術館でゆっくり、絵画を楽しむのもいいですね^^
    おいしいスイーツ付きでね♪うふ。
    2012年07月08日 14:18
  • よしあき・ギャラリー

    これは私も観てきました。
    マチスの赤の大作に圧倒されました。^^
    2012年07月08日 19:24
  • noriko

    先日ロシアの方とお会いする機会があり、せっかくだから一緒に行きましょうか、ということでこれ私も見てきました♪
    もうひとり東欧の方もいらしたのですが、一同2番めの裸のモナリザに絶句し、ひそひそ盛り上がりました(女子ばかりだったもので・笑)
    2012年07月08日 21:09
  • coco030705

    こんばんは。
    2006年にもありましたね。私も京都でみたと記憶しています。
    本当に素晴らしい名画が目白押しですね。
    Taekoさんがアップしてくださったお写真のなかでは、
    ルーベンス、ピエール=ナルシス・ゲラン、ジャン=レオン・ジェローム
    セザンヌ、 モーリス=ドニ、 フェリックス・ヴァロットン
    などがいいと思いました。
    関西に来るのが楽しみです。
    2012年07月08日 22:08
  • バニラ

    神話に詳しくないため、それに由来した絵画をいまいち楽しめないわたし。 19世紀以降の絵画ならすっと入ってくるのですが… トホホ
    特にマティスは好きなんです。 マティスの金魚はしばらく待ちうけに使ってました。今回のポスターもかわいいですよね♪
    2012年07月08日 22:18
  • りゅう

    こんばんは。リンクありがとうございます。
    この展覧会とても楽しかったですよね♪(^_^)
    お気に入り作品がいっぱいで、おでかけ記録ではどれを載せようかかなり迷いました。
    ピエール=ナルシス・ゲラン、ジョシュア・レノルズ、ルブラン、セザンヌ、マティスあたりは私もお気に入りでした。(いつになるかわからない)感想記事の際に取り上げようと思っています。
    2012年07月09日 00:12
  • mayu

    Taekoさん、こんばんは^^

    実は…
    ロシアで拝見したんですよ!
    Taekoさん、凄いセンスいいですね~さすが☆
    でもTaekoさんステキな時間ですね、価値観上がりそうですね!
    憧れます~☆
    2012年07月09日 19:55
  • Taekoさん
    解説本を出版できそうですね。
    レンブラントの光の当て具合は
    最近、注目しています。

    並んだ絵の中でも、やっぱり
    セザンヌの絵は
    ひときは光っていますね。
    2012年07月10日 08:00
  • Inatimy

    マティス「赤い部屋(赤のハーモニー)」 は、
    アムステルダムのエルミタージュ美術館分館で観ました。
    『マティスからマレーヴィチまで』っていう展覧会だったかな。
    その時に「仮面舞踏会後の決闘」も観て、しかも習作なども含め何枚も壁に飾られてたんですが、
    あらま、これってジャン・=レオン・ジェロームだったんですね~。
    今の地への引越作業の合間に行ったから、マティスのこの赤い部屋を見ると、
    なんとなくキュンとなります。
    2012年07月10日 17:32
  • チョコローズ

    わかりやすい解説で、このブログを待ってから観に行けばよかった・・・
    私でも素直に楽しめる展覧会でした。良いのもは、伝わるんですね。
    でも気に入った絵がどれか、というチョイスはやはり全然違います。絵画に詳しくない私とは
    全く違った観点で楽しまれた様子。なるほど~でした。
    2012年07月11日 21:28
  • kazu-m

    先週の木曜日に見てきました。
    平日にもかかわらず、沢山の人出に人気の高さがよく分かりました。
    バロック時代の絵画も、これだけの数がそろうのはなかなかないと思いました。
    どの作品も見ごたえがあり、帝政ロシア時代の力も垣間見たような気がしました。

    裸のモナ・リザは、ザ・ミュージアムのレオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想にも、難点か展示されていましたね。

    帰りには、大好きな小説家新田次郎さんの山と写真展を見てきました。
    小説の舞台となった山で、悪天候にあい疑似体験をした思い出、一昨年訪れて悪天候のために見れなかった、グリンデルワルドの山々の思い出。
    あわせて感慨深いひと時でした。
    2012年07月12日 22:10
  • Jerry

    エルミタージュは一度見てみたいと思っていますが、機会がありません。
    ルーベンス「虹のある風景」素敵だな~と思いました。
    2012年07月14日 03:10
  • pica

    行きたかったんですけど、今回は諦めました。
    ひそかに「京都展に行こうかな」なーんて夢を見てます( ̄m ̄*)
    サンクトペテルブルクまで足を伸ばせれば最高だけど。
    2012年07月16日 15:26
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲pinkさん、展覧会で歩いた疲れには、やはり、スイーツですよね。
    国立新美術館は、乃木坂の駅に直結しているけれど、外に出ると、外苑東通り
    に面して、銀座「ウェスト」のティールームがあって、おすすめです。おしゃれで、
    ゆったりとしていて、メニューも多くおいしいです。

    ▲よしあきさん、マティスの赤の絵は、第一印象、驚きますね。でも、よーく見てると、親しみがわいてきて、元気ももらえますね。

    ▲norikoさん、ロシアの方といらしたとは、思い出に残りますね。
    モナリザにひそひそ、、あはは、わかります(笑)

    ▲cocoさん、2006年のは、「都市と自然と人々」というタイトルで集められた
    作品の展示でしたね。(2006.11.10に記事を書いていました)
    その前1998年にも、開催されていて、図録が本棚にあります。たくさん所蔵品
    があるんですね~。
    ピエール=ナルシス・ゲランは、初めて知った画家です。ほかにどんなものを
    描いているのか気になりますが、ちょっと忙しかったので、調べてません。
    ジェロームは、印象派を嫌った新古典主義の作家で、フランスでは有名な画家で、いろいろ興味深い絵があります。

    ▲バニラさん、マティスの斬新さは、現代美術に通じるものがあって、バニラさんがお好きなの、わかります。絵画の中にデザインを感じますね。
    ギリシア・ローマの神話、、、そういえば、バニラさんの話題に出てきたことが
    なかったですね。今、気づきました。

    続きは、明日。
    2012年07月17日 01:50
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲りゅうさん、良い展覧会でしたね。いつになるかわからない感想記事、
    はい、見たときのことを思い出すのに役立っています。セザンヌ展に結局、
    行けなったのが残念です。

    ▲mayuさん、すごい、ロシアの本家エルミタージュにいらしたんですね。
    きっと、いい思い出でしょうね。ぴっかぴっかの宮殿で、名画を見たいです。
    壁は赤?なんて想像しています。

    ▲匁さん、解説本(図録)を読んでから書きました。なるべく正確な知識を
    いれてから書かないと、、こんなブログでも、読んでくださるかたがいらっしゃるんですもの。
    レンブラントにセザンヌ、時代を超えた世界の巨匠。匁さんのようにご自分で
    絵をお描きになると、着眼点も違うのでしょうね。
    きょうは久しぶりで、ナイター中継を見ました。最近、TV放映が減って、
    つまらないのですが、巨人阪神戦は、やるんですね。

    ▲Inatimyさん、アムスにエルミタージュの分館があるんですか。歴史的に
    古い?と思って調べてみたら、最近、できたんですね。本館から、作品を持って
    きて、企画展をするんですね。本館に作品が多いから、できるんですよね。
    「マティスからマレーヴィチまで」、とっても興味あり~です。マレーヴィチの
    かわいい働くおじさんの絵シリーズが、好きなんです。単純化の見本のよう。
    2012年07月18日 01:21
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲チョコロさん、<良いのもは、伝わるんですね> → ほんと、そうですよね。
    人を感動させる力をもっていますね。(おいしいものもそうですよね。)
    私も昔は、もっと違うタイプの絵が好きでした。たくさん見ているうちに、好みも
    変わってきたりします。で、また元へ戻ることもあるし、変遷も面白いです。

    ▲kazu-mさん、忙しかったので、お返事が遅くてすみません。
    平日でも結構な人出だったのですね。
    これだけのコレクション、帝政ロシアのエカテリーナ女帝の力は圧倒的ですね。
    ロシアの作品はひとつもないんですよね。
    Bunkamuraのダ・ビンチ展、行かれなかったのですが、やはり、裸の、、が
    出てたんですね。全部で少なくとも12点の裸のジョコンダが存在するそうです。

    私の友達も、エルミタージュ+ミッドタウンの新田次郎展に行ったそうです。
    エルミタージュの入場料1500円が高いと言ってました。それにくらべ、無料の
    新田次郎がよかったとのことでした。kazu-mさんのグリンデルワルトの写真は
    雄大ですばらしかったですね。夏になると、スイスの山に行きたくなります。まだ、
    行ったことがないので。

    ▲Jerryさん、この中では、ルーベンスがお好きでしたか。ちょっと意外な気が
    しました。古典的な正統派より、新しい時代のものの方がお好きかなと思った
    ので。

    ▲picaさん、京都展ね、なるほどー。もう、すっかり、京都におくわしいpicaさん
    ですものね。サンクトペテルブルグ、私も、それが最高っていうか、望みです。
    2012年07月18日 01:44
  • moz

    結局、この展覧会にはいけませんでした。全開の大エルミタージュには行ったんですが・・・、残念。
    よい絵がたくさんきていたんですね。 ^^;
    ジェロームのがとても気になりました。
    2012年07月22日 09:29
  • TaekoLovesParis

    mozさん、ジェロームには、「ピグマリオンとガラテア」という、ちょっとあやしい
    かも、っていう絵があります。やはりドラマ性があるので、「仮面舞踏会後の
    決闘」が気になったmozさんに、見てほしいです。私も絵の意味するところが
    よくわからないので。
    2012年07月25日 00:25

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