国立新美術館へ「Domani・明日展」を見に行った。
Domaniはイタリア語で「明日」の意味。
文化庁が実施している若手芸術家の海外研修留学の成果を発表する展覧会。
1、チケットに使われているのは、横澤典(1971~)の写真「Lexington Avenue」
実際にニューヨーク、レキシントン通りの街路樹1本、1本を撮った写真を貼り付け
ている。1本が20㎝の短冊。全部で300本くらい。平面の写真よりも立体感が出て、
見る角度により違って見えるのがおもしろい。
これは、新緑の季節だが、紅葉の季節の同じ街路樹の写真も展示してあった。
細長い作品。↓は一部分。30本はあると思う。
横澤はニューヨークに留学し、現在もニューヨーク在住。
夜のニューヨークのビルの窓部分だけの写真は、格子模様のようで、テキスタイル
っぽく、面白かった。
2、山口牧子(1962~) 絵画 「Bird Spinning」 イギリス留学
かなり大きな作品で、これが連作になっている。
空気や風を意識して描いてるそうだ。鳥といわれれば鳥だが。。
色が女性っぽく美しい。
3、元田久治(1973~) 版画 「Harber Bridge, Sydney」 オーストラリア留学
白黒の写真かと思ったら、リトグラフ、版画。
どの建物も朽ちていく、廃墟になるようすを描いている。
東京駅が、アンコールワットのように、ジャングルに覆われた絵は衝撃。
↓は、シドニーのハーバーブリッジが崩れているところ。向こうに有名な建物、
オペラハウスが見える。
4、津田睦美(1962~) 写真 「Nina」 オーストラリア・ニューカレドニア留学
太平洋戦争の時、オーストラリアの強制収容所に送られた日本人(日系一世)と、
その子供たちのポートレート写真や資料。ポスターにも使われている「Nina」は
日系一世の女性。顔つきがよく見ると日本人だが、、というほど、現地化している。
日系家族の歴史を丹念に調べたドキュメンタリー。
5、綿引展子(1958~) 現代美術 ドイツ留学
大きな壁にかける布の作品。
6、阿部守(1954~) 彫刻。 鉄の彫刻や、鉄を加工して作った作品。
7、児嶋サコ 絵画 ネズミがテーマなので、私はちょっと。。。
8、塩谷亮(1975~) 絵画 「Olga」 イタリア留学
塩谷さんは、見とれるほど美しく上品な絵で、今、超人気の作家。
モデルさんの息遣いまで伝わってきそうな写実。
髪の毛が揺れるかのよう。服の生地は何なのかも手にとるようにわかる。
やわらかな光。
人物画が多いなか、一点、この風景画がある。葉、草の表現は、そばで見たら、
驚くほどの細かさ。
一昨年、「すごくいいから」と、Sからすすめられ、塩谷さんの個展に行った。
地味な画廊での個展のせいか、お客さんがその時間は誰もいなかったので、
塩谷さんが留学の話をいろいろして下さった。素晴らしいのは、作品だけでなく、
お人がらもゆったりと謙虚、その上、長身、イケメン。
Domani展会場に、塩谷さんが留学中に模写したボッティチェリの「春」の部分画と、
ヴェロッキオ工房の「キリストの洗礼」のダ・ヴィンチ担当部分の模写も展示されている。
それらをどのように制作したかのプロセスが、彩鳳堂発行の「文化庁在外派遣研修報告」
に詳しく載っていて、絵に興味ある人には、面白いと思う。
模写を通して、イタリア・ルネサンス絵画の色面境界、空間構造の研究から得たものが、
塩谷さんの空気感のある柔らかな現代の人物画に表されているのだ、とわかった。
この記事へのコメント
ぶんじん
匁
この研修制度で育ったアーチストはどんな人がいるのかな?。
写真と絵画のコラボなどすべて具象的な作品が並んでいます。
抽象作家の作品が無いのはチョット気がかりです。
TaekoLovesParis
▲ぶんじんさん、芸術家は支える人が必要ですものね。個人にたよらず、文化の発展のためにも芸術の援助をしてほしいですね。
▲匁さん、書きもらしましたが、今回は、この制度45周年記念として、育ったアーティスト50人の作品展示もありました。洋画では、奥谷博、絹谷幸二、田村能里子、吉岡正人、私が名前を知ってる人です。
1番目の山口牧子さんは、抽象に近いと思います。
yk2
塩谷亮さんの作風をねーさんがお気に入りなのは何となく理解出来ますね。生真面目っぽい写実性と精細な描写具合が、やっぱり同じくお気に入りのファンタンラトゥールっぽいもの。
それと、今回載せられているここでの写真だけで思うと、グレイッシュな色遣いがハンマースホイと共通するふうにも感じます。ホイ(なんとかナントカなんとかホイ、ってねーさんの真似して略してます・・・笑)もこんなふうに木が主役の風景画も描いてたじゃないですか。
TaekoLovesParis
Olga,そういえば、ロシアの名前で、顔立ちも服の刺繍もそうですね。
塩谷さんの絵のモデルさんは美人で若い人ばかり。その点はファンタンラトゥールと違いますね(笑) 塩谷さんがお花の絵を描いたら、どんなふうでしょう?でも、今のところ、彼の関心は、人物と風景みたいです。
レオナルドの模写から、塩谷さんが得たものは、形を輪郭線でなくボリュームでとらえる意識によって、単なる立体表現ではなく、大気の中に存在する物体、空間を描こうとした思いだったんですって。Olgaも下の風景画の横の人物画(Martina イタリア名前ね)も、人物が背景と一緒に空間を構成してると気づくと、背景に描かれた影の効果がわかる気がします。
Inatimy
留学先を、イタリアにしようかオランダにしようか、迷ったそうですよ。
オランダだったら、また違った作風になってたのかしら。
(留学先の話は、ついさっきブログのフィレンツェ留学記をちらっと読んで知ったんですが。)
TaekoLovesParis
会場に、留学前の大きな人物画が2点展示してあって、それもとっても精密な写実なんだけど、空気感がない、写真のようなの。だから、留学後と大いに違う、って、わかりました。つねにもっといいものを作っていこうとする努力の姿勢、学ばないと。
TaekoLovesParis
覚えてて、やぁね~。夏目漱石の石だけ言ってるようなもの、ってきついお言葉
賜りましたっけ。老後はホイの絵にでてくるような静かな生活をしたいです。
moz
ビジョンをしっかりと明確にして人材を集め切磋琢磨していくこと。
日本はこういうことをちゃんとしないから今のような状態になってしまっているんだと・・・。ちょっと愚痴です ^^
でも、こういうことにはお金をかけたほうが良いなと思います。やはりやるからにはNo.1を目指すべきです。芸術の世界も同じじゃないかと思います。
出展されている方達、いずれも素晴らしい才能の持ち主なんですね。
機会があれば見に行ってみたいと思います。
今年はまだゴヤしか行っていません。ゴヤは面白かった。写真に通じるところがありましたし、画家も面白い人。今、本を読んでいます。
TaekoLovesParis
結果としてNo2やNo3になるかもしれないけど、努力の過程では、力を抜かず、
最高のものを作る努力が必要だし、目標に到達することは最高の喜びだと思います。昨日見た映画「ピアノマニア」でも、それを感じました。
ビジョンの大切さは、今の政治を見ていると、痛切に感じます。どこに行こうとしてるの日本、と言いたくなります。ゴヤは鋭い目を持っていましたね。お読みになっていらっしゃるのは、堀田善衛の大作「ゴヤ」ですか?
写真に通じる、っていうのは、わからなかったです。写真、うまくなりたいのに、
気づかなかったです。