世紀末、美のかたち展

  職場での仲良しMが、「招待券もらったから行きましょう。紅葉が綺麗だと思うから、
カメラ持って行った方がいいですよ。」 というわけで、府中市美術館へ行った。
京王線府中駅からバスに乗ると、あまり歩かなくてすむが、この季節はひとつ手前の
東府中駅で降り、府中の森公園を散歩がてら通り抜けて行く方が気持ちがいい。
公園は米軍基地だった広い場所なので、大きなケヤキや桜の並木に、整備された
花壇、テニスコートと散歩に快適な場所。車椅子でも廻れるように全部がスロープ
になっているので、Eのお母様をお連れしたこともあった。

世紀末美のかたち展.jpg

 「世紀末、美のかたち」と銘打った企画展なので、19世紀末ヨーロッパの美術、
いわゆるアール・ヌーボーの時代の作品が展示されている。ガレ、ドーム兄弟、
ラリックなどのガラスの花器、ルドンの版画、絵、ミュシャのポスターなどが見れる。

展示は、わかりやすい形になっていた。
1.自然とかたち …… 花や蝶、水など、自然界にあるものを模様に取り入れた
のが、アールヌーヴォーのひとつの特徴。
左)ドーム兄弟の「けし模様の花器」  右) ミュシャ「百合」

けしの花.jpg       myusya.jpg  


ラリックは、トンボのブローチが有名だが、今回展示されていた「羽のあるニンフ」
(ポスター右下)も、形の美しさに加え、エナメルの緑色、金線とダイヤが輝いて綺麗。

私が一番、心奪われたのは、ラリックの蓋物「2人のシレーヌ」
水の妖精シレーヌは、旅人をとらえたら放さなかったという伝説があるが、
この水の泡の帯でぐるぐる巻きにして捉たのだろうか。

シレーヌ.jpg


2、文字を刻む……作品に文字を刻んだものが現れたのも世紀末芸術の特徴のひとつ。
なぜ、いきなり、ゴーギャンの絵?と思ったら、この絵に「NAVENAVE FENUA」
(かぐわしき大地)と、文字が刻まれているから。(写真左)
(写真右)ガレのカエル模様の花器にも「好かれようと気にかける」と文字がはいって
いる。 カエルがトンボをじっと見つめているが、普通、カエルはトンボを食べてしまうのに、、
好かれようとする、、真意は何?と私にはとっても疑問。

Gogan.jpg    garre.jpg


そういえば、ミュシャのポスターにはいっている文字も、文字の形がビザンティン風で、
装飾的な工夫がみられる。

 3、異形の美……端的に言うと、グロテスクなもの。たとえば、ルドンの目玉シリーズ
の黒白版画群。これはどうも好きになれない。。
ガレの「海馬文花器」も、かなりおどろおどろしい。海馬はタツノオトシゴのことだが、
愛らしい形ではなく、むしろ蛇に近く、とぐろを巻いている文様。
ドーム兄弟の作品も、蜘蛛の巣文様の壷だった。


4、光と闇……ルドンやガレは、光や闇を単なる自然現象ではなく、神秘的なもの
として捉えようとした。絵画と工芸と違う分野ではあるが、世紀末という同時代として
の共通した何かを共有している。生命力への憧れ、科学文明への関心、自然主義
への共感など、19世紀末が持っていた時代のかたち、そして未知のものを目指した
芸術家の仕事が見て取れる。

ルドンの「目を閉じて」は、いくつかのヴァージョンがあるときいていたが、これは
個人蔵(1890頃)。オルセー美術館のもの(1904)は、フランス政府買い上げ作品。
顔立ちが違う。くらべてみてください。

Rudon.jpg         Garee.jpg

ルドン「目を閉じて」(1890年頃)     ガレ 「樹陰」(1900年頃)
                           「薔薇文花器」(1890~1900年)

ガレの有名なリボンが巻き付いているような「蘭文花器」もあった。

モーリス・ドニ《それは敬虔な神秘さだった》 というパステル調の絵もよかった
窓の外から入る光が、マルトを照らし、神秘的に輝いていた。これらは、
町田市美術館のものだったので、また見れるという感覚がうれしかった。

今回の展示の花器の大半は、北沢美術館からのものだったので、これも
また見れると思いたい。

府中市美術館は、府中の森公園の中にある。公園内には、いろいろな
現代日本作家の彫刻があり、これらを見るのも楽しい。
舟越保武の「鳩を持つ少年」
ナイーブな少年のフォルムが美しい。

鳩2.jpg


まるで仏像のような穏やかな顔の少年。
鳩を慈しむかのように、大切に捧げ持つ手。
舟越さんの彫刻については、yk2さんが詳しく記事を書いてらっしゃいます。

hato8.jpg



<追加>府中の森公園の紅葉は、始まったばかり。見頃には、ちょっと早かったよう
でした。     

府中の森公園.jpg


池のまわりのモミジもまだうっすらと赤いだけ。

府中の森公園2.jpg


紅葉を探していたので、チェリーセージの赤に目がとまりました。


チェリーセージ2.jpg

この記事へのコメント

  • hatsu

    『羽のあるニンフ』『2人のシレーヌ』、素敵ですねー。
    旅人をとらえたら放さなかったという話を聞くと、
    ますます美しく見えてきます^^
    2011年11月18日 05:32
  • baby_pink

    ミュシャの作品『百合』つつましやかで
    柔らかくて、純粋な雰囲気。。。
    とっても心落ち着きます。

    その時代に生きる中で、美しもの・感じるこころを
    こうやって、絵に表現できるって本当に素晴らしいなぁ~
    って思います^^
    2011年11月18日 08:54
  • ぶんじん

    アールヌーボーの作品群は見ていて飽きないですね。
    ミュシャのポスターの文字は”ビザンチン風”と称されているんですね。凝った装飾的文字は絵との調和もすばらしく、まさにポスターとしての機能美って感じがします。
    2011年11月18日 09:13
  • 蝶もいろいろ発想ができて、面白そうです。
    何か?作りたいと思います。
    やっぱり自然界にはいない大形の物
    が良いかな?。
    でも、トンボからまだ卒業していません。
    2011年11月18日 19:19
  • Inatimy

    ラリックの蓋物、色がキレイですね~。 幻想的な水の中。
    シレーヌは映画『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』では、
    美しいけどかなり凶暴な面もあって怖かったですけど。
    この中で、ひとついただけるとしたら(←厚かましいけれど)、ドーム兄弟の「けし模様の花器」かな。
    ・・・あら? 紅葉の写真はないのかしら。
    追伸:「鳩を持つ少年」、リンクさせてもらっていいですか?
    2011年11月18日 20:27
  • yk2

    いっ、いやですよ~、全然詳しい記事なんて書いてないじゃないですか~(汗)。ひょっとして、これって、「もっと詳しく加筆しろ」って意味の新手の丸投げ方ですか?(^^;。

    じゃ、僕も書いておきましょう。
    あら?、紅葉の写真はないのかしら(笑)。
    2011年11月18日 22:37
  • TaekoLovesParis

    yk2さん、私は十分に詳しいと思ったけど、違うとおっしゃるから、「詳しい」は、
    打消し線引いておきました。加筆は所望してません。yk2さんの新記事を期待
    していますよ。
    紅葉の写真、見せるほどのものでは、、って思ったけど、2名様よりのリクエスト
    だから、喜んで、明日載せちゃおう。
    2011年11月18日 23:04
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲hatsuさん、『羽のあるニンフ』『2人のシレーヌ』、両方とも体の曲線が
    きれいですよね。シレーヌって、妖精だから、ちょっと悪なんだけど、美しい
    から許す、かな(笑)

    ▲pinkさん、百合に囲まれて、ドレスも白で、ピュアな感じですね。柔らかいし。
    pinkさん、いつもとっても上手に文字で表現してくださるので、感心してます。

    ▲ぶんじんさん、ポスターは文字が大切な役割をしてるから、文字に凝ることで、
    絵も活かされて、おっしゃる通りの機能美ですね。流れるような曲線の絵に、ゴシック体はちょっと釣りあわないですものね。展示されていたオペラ「TOSCA」のポスターも装飾文字が絵にとけこんでいました。

    ▲匁さん、蝶のモビールもいいでしょうね。いろいろ楽しいアイディアの作品も、
    何かのきっかけで生まれるんですね。

    ▲Inatimyさん、パイレーツ・オブ・カリビアンの4、生命の泉は見てないんだけど、
    シレーヌが出て来るんですか。凶暴ね、、そういえば、説明に、残忍と書いてあり
    ました。「旅人はシレーヌにご用心」のように歌われてるとも書いてありました。
    「けし模様の花器」は、こうやって光が当たると、特に綺麗です。Inatimyさんが
    お持ち帰りになりたいのもわかります。
    リンク、もちろん、どうぞ~、じゃなくて、逆に、ありがとうございます。
    2011年11月19日 00:10
  • りんこう

    「羽のあるニンフ」は箱根のラリック美術館で観た記憶があります。
    同じものなんでしょうか?箱根のラリック美術館もなかなか見ごたえがありました。
    2011年11月19日 11:55
  • ララアント

    Taekoさんの説明や思いを感じながら興味深く拝見しました。
    美しさに目を奪われる作品ばかりのようでした。
    2カ月前にひとりで東府中の府中の森芸術劇場へ出かけてばかりですが
    それも 何だか遠い昔の出来事のようで Taekoさんの「鳩を持つ少年」の彫刻を
    ちらっと見たのを思い出しました^^;
    美術館もあったのですね!
    市営ですが立派ですね。。。
    2011年11月19日 15:17
  • バニラ

    ラリックは、やっぱりすてきですね。 
    「好かれようと気にかける」=逃げないで… と思ったけど。
    ルドンの「目を閉じて」はオルセーの方がより神秘的かなと思って拝見しました。
    舟越さんの彫刻、気にかけるといろいろなところで鑑賞できるのですね。 
    チェリーセージがかわいらしい♪
    2011年11月20日 05:49
  • moz

    2人のシレーヌ、ほんと素敵なデザインですね。
    昨日、パイレーツ・オブ・カリビィアンのDVD を見たばかりで、人魚が頭の中にいます・・・、よけい興味をひかれるのかもしれません。ローレライ、セイレーン、みな歌が上手くて男性をひきつけてしまうのですよね・・・。 ^^;
    ポスターも素敵だな。
    芸術の秋、とりあえず、ゴヤの券をもらいました。近日中に見に行こうと思っています。
    2011年11月20日 10:00
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲りんこうさん、箱根のラリック美術館、私も行ったことがあります。
    環境もいいし、展示品もいいですよね。「羽のあるニンフ」、ここのは、
    国立近代美術館からと書いてありましたが、同じのはいくつかある
    と思います。

    ▲ララアントさん、府中市美術館は、芸術劇場と真逆、東府中からは
    一番遠い場所なんです。市営なのに立派なのは、府中市は競馬場が
    あるから、財政が豊かなんですよ。
    2011年11月20日 23:47
  • シェリー

    今年はこちらはとっても暖かい11月が続いているので
    まだなかなか紅葉していませんが
    そちらはいかがでしたか?

    ミュシャっていえばMOETのポスター
    思い出しちゃいました♡
    2011年11月22日 11:52
  • ムーミン

    ラリックの蓋物「2人のシレーヌ」・・・
    水の妖精が、水の泡で旅人をとらえたら放さなかったというお話、素敵ですね。
    目の前にたったら、幻想的な世界に浸りそうです。

    紅葉もこれからで、いろいろ楽しめる美術館ですね。
    ポスターの蝶の姿も、綺麗です!
    2011年11月22日 13:41
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲バニラさん、あ~、そうなのね、逃げないで、なのね。なるほどー。
    私は作品の裏が読めないけど、バニラさんは文学の解釈ができるから。
    舟越作品、結構たくさんありますね。世田谷美術館の庭にもありました。
    チェリーセージ、群生してて、風になびき、きれいでした。

    ▲mozさん、パイレーツ、、のDVDをご覧になったばかりとは、
    ナイスタイミングでしたね。たしかに歌は人をひきつける力がありますね。
    歌声に誘われて行ってみると、、というの、お話の中ではたびたび登場
    しますよね。
    ゴヤ展のチケット、いいですね。見ごたえがあることでしょう。

    ▲シェリーさん、東京も今年は遅い紅葉で、イチョウがようやく少し、
    黄色くなってきました。東京都のマークはイチョウなんですよ。
    ミュシャの華麗なポスター、わかります。アールヌーヴォーからもう
    100年以上たってるわけだから、MOETの歴史の長さを感じますね。

    ▲ムーミンさん、幻想的って、現実離れしてるから、惹かれますね^^
    アールヌーヴォーは曲線美が多いですね。シレーヌも蝶の女の人も
    体の曲線が華麗だなーと思います。
    美術館が公園の中にあると、自然散策も楽しめていいですよね。
    2011年11月25日 00:45

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