11月の某日、横浜美術館へ楽しみにしていた「ドガ展」を見に行った。
ドガの作品に描かれる題材は、当時の上流階級の生活なので、洗練されていて、
どんなときに見ても穏やかな気持ちになり、その達者な表現力に惹きつけられる。
強烈な個性はないけれど、そこはかとなく漂う品のよさがある絵。
展覧会の展示順に従って御紹介。
古典の時代
ドガは、絵をアングルの弟子に学んだので、初期は古典的な作品を描いていた。
この春、オルセーで見た「町(バビロン)を建設するセミラミス」が、入り口から近い
所にかかっていたので、うれしかった。この絵のための習作(デッサン)も数枚、
並んで展示され、セミラミスに情熱を注いだ熱心な仕事ぶりがわかった。
同じような古典的技法の絵が、「トキと若い女」、メトロポリタン美術館で見た絵。
左上に、丁寧に描かれた町が見える。手前には植木鉢の花。
女の人が佇む場所は高台のテラスのように見える。
青緑の服のドレープが絵全体に立体感、厚みを持たせ、このドレープと
2羽のトキが逆三角形をなしている構図。鮮やかな色彩。
マンテーニャの「磔刑図」の模写。クールベ風の「木陰で死んでいるキツネ」
に同行の友達が「死んでいるように見えない」とつぶやいた。マンテーニャや
クールベの迫力は、若い時代のドガには表現しきれなかったのね、と思った。
馬
ドガは、馬の絵がうまい。
これは、ボストン美術館で買ったポストカード。
小さな絵で、ボストン美術館では、特別扱いでなく、廊下に他の作家の絵と並んで
展示されていたのだが、半分以上が空、という爽やかな空気にひきつけられた。
二頭立ての馬車、黒い犬と山高帽の紳士の視線の先には、赤ん坊に授乳する奥さん。
誰の絵?と近づいてみたら、「EdgarDegas」。
この頃のドガは、印象派に属していた。
モデルは幼い頃からの友人ヴァルパンソン夫妻。競馬はこの時代、英国から伝わり、
上流階級で流行っていたそうだ。
「アマチュア旗手のレース、出走前」
アマチュアのレースなので、大勢の観客たちが熱心に見送っている。
旗手たちも、プロ旗手の「出走前」(下の絵)に比べると、うつむき加減の姿勢に、
多少の不安感が伺え、あわただしいようすも伝わってくる。
この絵の遠景の煙突は20年後に描き加えられた。工場ができて、この辺りの
景色が変わったため、描き加えたのだそう。工業化の波がここにも押し寄せて
いた時代。20年間、手元にあった絵とは、気に入ってたから?それとも?
「出走前」
これは、上の絵より10年後。横長の画面に臨場感がある。
肖像画
ドガは、たくさん肖像画を描いているが、時代によって技法が違う。
古典の時代の自画像は、アングル風。印象派の時代は、顔に赤や緑の点が置か
れたものがある。鉛筆画の「マネの肖像」は、立ち姿のマネ。さらりと描いているが
、マネのポーズが決まっていて洒落た一枚。
ドガの肖像画は、家族や親戚、友達のアーティストと、よく知っている人を描いている。
親しいから、着飾った記念撮影ふうではなく、日常の瞬間を捉えて描いている。
マネ夫妻を描いた絵をマネに見せたところ、奥さんがきれいに描かれてないと、
マネが奥さん部分を切ってしまったという有名な逸話の「半欠けの絵」もあった。
ドガファミリーでのドンは祖父。
王党派だったため、フランス革命後、祖国を追われイタリアに移住。銀行を開いた。
ドガの父は、銀行のフランス支店をまかされ、フランスに戻った。
威厳ある姿の祖父の肖像画。 父は、スペインギターに耳を傾けている人。
「ロレンソ・パガンとオーギュスト・ガス」
踊り子
「ダンス教師ジュール・ペロー」という肖像画もあった。
この絵で、真ん中に立っている先生。ドガが踊り子を描き始めたのは、40歳頃。
有名な「エトワール」は、パステル画なので、オルセー美術館では、暗くて
よく見えないのだが、ここでは、照明を受け、実にきれいで、華やかだった。
絵のすみずみまで見え、描かれている人たちのドラマが伝わってくるかの
ようだった。
浴女
60歳、視力が衰え始めたドガは、パステル画が多くなり、入浴する裸婦をテーマに
描き始める。左は、手に持っているスポンジが髪の毛の色と同じなので、?と思える
かもしれないけど、視点がおもしろい。上から見ている?右は大胆。
さらに、彫刻の制作も始め、踊り子の彫刻をたくさん造った。
一瞬の動きを絵に、彫刻にとどめおこうと追求し続けた生涯。展示された写真など
からもドガを身近に感じる展覧会だった。
行ったのが日曜日3時すぎ。展覧会場から帰る人が、どんどん出てくるので、
会場正面の写真は、撮りにくかったから、これは横の写真。
この記事へのコメント
aranjues
展覧会の記事を読んだやらですが、いよいよ大御所の
記事がアップされましたね(笑)。コメントするにはあまりに
知識ナッシングでしたので、少しネットでドガの勉強をしてみました。
あの私でも知ってるエトワール、日本初出展なんですね。
やはり印象派の作品は絵のこと解らなくても魅力的です。
TaekoLovesParis
しかも一番にいらしてくださってありがとうございます。
そう、あのバレエの「エトワール」がオルセーから来てます。オルセーは
改装中なので、貸し出してくれたのでしょう。照明で絵はずいぶん違って
見えるって、わかりました。もちろんライトアップされているほうが美しいです。
印象派の絵は、なじみがあるから、「これ、知ってる」っていうのに会う確率が
高いので、楽しいですね。
りゅう
でも、この展覧会は(も?)パスする予定です。。。
埼玉からはちと遠くて。。。(^_^;)
エトワールは興味あるのですが、
踊り子の顔を冷静に見ると、けっこう怖いんですよね。。。(/ー\*) イヤン♪
そうそう、マネがカンヴァスをぶった斬った作品は何年か前に観た事があります。
まさかアノ作品が国内で所蔵されているとは思いませんでした。(^_^;)
baby_pink
あのバレエの優雅でエレガントな姿には
表には見えない隠れた努力や緊張感の中
レッスンが行われていることが伝わってきますね。
とっても魅力的。✿。
女の子にとっては、あのチュチュ姿は永遠の憧れですよね^^
よしあき・ギャラリー
roseadagio
「半欠けの絵」は衝撃的でした。
「エトワール」はチュチュが細かく描かれているのかと思っていたら、パステルで遠目に見ると華やかに見えるように描かれていたのが興味深かったです。
「バレエの授業」はレッスンを受けている少女達が、だらんとしていたり、真剣な顔だったりキャラが立っていて、見ていて楽しかったです。
一連の「裸婦」はこんな格好で体洗う?と友人と口々に話しながら、観賞したのを思い出しました。
TaekoLovesParis
▲りゅうさん、埼玉から横浜は遠いですよね。埼京線?武蔵野線?って考えて
みても遠いです。たしかに踊り子の中には、こわい顔=真剣な顔の子もいるし、
印象派の影響か光の具合かで、顎がグレーだったりっていうのも、メトロポリタン
で見ました。ドガの人物画は、ある一瞬を捉えて、表情の面白さで描いてるから、
実物以上に美しいのは、なさそうです。「アブサン」なんか、見るたびにモデルの
人に同情しちゃう。その点はロートレックにも似てますね。
そ、北九州なんですね。私も意外でした。だから、前にも展覧会で見た、って
いう人がいるんですね。
▲pinkさん、美しいアーティスティックな世界は、pinkさんの感じです。
踊り子は、職業としてのバレエだから、真剣さが伝わってきますね。でも、やはり
年若いから、ふっと、気が抜けて、あどけなさが見えたりしてる子もいるのが、
ていねいに見て行くと、おもしろいですね。
▲よしあきさん、なるほど~執念なんですね。
▲roseadagioさん、ゴッホ展、ドガ展ともにランチつきの記事、よく覚えてますよー。
チュチュの描き方まで、はっきり見える照明でしたね。舞台横の人(パトロン)も
表情がわかる気がしました。自分の出番じゃやないときの少女の姿があどけなくて、
かわいいです。裸婦を見てのお友達との感想が、素朴で、いいな~(笑)。特に
右のオレンジ色のは、謎が多いです。
マネの絵、芸術家は、気性が激しい人が多いから、斬ってしまうも、あり、だと
思います。
ぶんじん
匁
良く描けたものだと感心します。
スケッチを綿密に行ったか
もう、頭の中に記憶されてしまっているのか?
yk2
一見、ロマンティックで優美な『エトワール』にしたって、背後にはパトロンが描かれている様に、所詮は皮肉屋ドガの絵ですからねぇ(笑)。まぁ、僕はそんなドガや彼に連なるカサットやロートレックの作品が大好きですけどね(^^;。
taekoさんは「強烈な個性はない」と手厳しいですが(笑)、素晴らしいデッサン技量とパステルにおける完璧な彩色は、アングルとドラクロワの美点融合を目指した19~20世紀の画家の中では頭抜けた存在だと僕は思ってます。
Inatimy
貯金箱を兼ねた額に入ってたカードがその絵でした。
踊り子の背後に、陰からこっそりうかがってる人が怪しそうで、
狙ってるわ・・・って、怖い絵なのだと思ってたのでした・・・。
会場を横から撮った写真、花がいっぱい咲いてて、奥に紅葉した木があって、
キレイですね~。
+k
「ドガとピカソ」という、企画展をしていました
同じモチーフ、同じアングル、そして彫刻まで
時代的には一応重なっていますが、世代の違う2人の
個性の差異が、とても面白く比較されている展覧会で
すべての作品が、対になって展示されていて印象的でした
年末までに、横浜に行ければいいのですが・・・+
hatsu
『半欠けの絵』も、気になります^^
Taekoさんのお話聞いてると、観に行きたくなりますね♪
ぎーこ
エトワールがオルセーとずいぶん違う印象でしたが、
照明のせいなんですね。
本当に美しかったです。
稽古場に通い詰めたドガならではの表情やしぐさを味わえて
行って良かったです。
TaekoLovesParis
オルセーでは、水彩だから、照明が暗いし、私が行ったときは、端にあったし、で、
こんなにはっきり見えなかったので、今回は、とってもうれしかったです。色の置き方もちゃんと見てとれましたね。じっと見てると、この一枚の絵で繰り広げられているドラマが伝わってきて、他の踊り子シリーズを今まで以上に親しみをもって鑑賞できそうです。
TaekoLovesParis
お父さんはそれに比べると、少し、やさしそうなんですよ。で、妹は、、、
って、家族を見ていくと、結構、似た顔なんですよ。
半欠けは、国内にある絵なので、これからも見る機会がありますよ。
TaekoLovesParis
ヨーロッパの方がいい企画の展覧会がありますね。絵も集めやすいでしょうし。
その企画がどこかに巡回したら、、見たいです。
雛鳥
踊り子の作品がたくさん見られると勝手に期待していましたので、
実は思っていたよりも地味だったなあ、という感想だったのですが…。
とは言え、普段あまり目にすることのない、ドガの肖像画や馬の作品も見られ、
色々なドガを堪能できて良かったです。
ドガと言えば踊り子、というイメージが凝り固まっていたので…。
とは言え、いちばん好きなのは美しい「エトワール」でしたが(笑)。
横浜美術館は5年振りくらいでしたが、常設展が変わったように思えました。
日本画がこんなに充実していたとは、ちょっと驚きました。
TaekoLovesParis
▲ぶんじんさん、本場のオルセーで見るより綺麗に見える「エトワール」(主役の
踊り子)ですから、お時間があったら、ぜひお出かけください。
▲匁さん、ドガの観察眼は、やはり、飛びぬけています。その上、デッサン力が
あるから、見つめ続けて描いたのに、さらりと見えるすごさがあると思いました。
結婚もせず、ひたすら描いて描いての一生。描くことが楽しかったんでしょうね。
だから、後年、目が悪くなってしまい、絵がムリと思ったので、彫刻を始めたん
ですって。
ドガが60歳を過ぎた頃に、写真が登場して、浴女は写真を使ったそうです。
写真が好きで、自分でもいろいろ撮影したものが展示されていました。
▲yk2さん、ロートレックはドガより30歳年下で、最も崇拝していた画家は
ドガでしたね。
ドガの「ありのまま」は、ありのまま以上、誇張され、モデルの個性を強く出していると思います。その個性は、もしかしたら、モデル本人も気づいていない
一面だったりするのかもしれませんね。マネは、夫人のピアノを弾く姿がこんなに太ってない、って怒ったんでしたっけ?
「強烈な個性はない」っていうのは、ゴッホやルノアール、ゴーギャンのように
一見して、わかる特徴がない、っていう意味で使ったんです。踊り子が描かれて
いればドガっていう見方が多いから。
長生きしてたくさんの影響を他の画家たちに与えましたね。+Kさんが、コメントで
書いてくださってるように、ピカソ的な存在でもあったんですね。
私にとっては、まだまだ知りたい見たいところが多いドガです。NYで見た「帽子屋
で帽子をかぶってみている絵」、これが雰囲気がよくて一番好きな絵です。
りんこう
馬車の絵などの構図からはドガが写真好きである様子がうかがえます。
対象がキャンバスにおさまらずちょん切られていたりして。
「ドガ展」、行きたいのだけれど、横浜はちょっと遠いなあ…。
パリよりは近いと思うんですけれど…。
TaekoLovesParis
ホメロスだったか?神話を題材とした絵の構図と同じに仲間でポーズをとって
、写真を撮ったりと、楽しそうなようすの写真も展示されていました。
りんこうさんの所から、横浜は遠いですものね。パリよりは近い(笑)