マンテーニャ展

 昨年12月、ルーヴル美術館で「マンテーニャ展」を見た。
日本で、マンテーニャは誰でもが知っている画家ではないが、パリでは、同時期開催の
「ピカソと巨匠たち展」と同じくらい注目されている展覧会だった。

 mantegna.JPG

 アンドレア・マンテーニャ(1431~1506)は、北イタリア、ルネッサンス期の画家。

 画家ベリーニの娘と結婚。義弟といっしょに工房を作り、ヴェネツィア派を確立した。
油絵でなくテンペラを用い、ごつごつした硬い線描、遠近法などでドラマ性を出す独特の画風。
彼のさまざまな技法は、早いうちからヨーロッパ全土に広まった。

 [右斜め下] 岩のゴツゴツ感がすばらしい。目を奪われる。
 「オリーブ山の祈り」 1456年頃   (図録をスキャンしたので分割されててスミマセン)

Mantegna001.JPGMantegna2.JPG

 ユダの裏切りを知ったキリストは最後の晩餐の後、ペテロ、ヤコブ、ヨハネの3人の弟子
を連れて、オリーブ山の麓のゲッセマネで、神に祈りを捧げる。
天使があらわれ、キリストを力づけるが、3人の弟子たちは、眠りこけている。
左横に、キリストを捕らえるためにユダと共にやってきた群衆が小さく描かれている。

これは、フランスのトゥール美術館の所蔵品。
[右斜め下] 同じ主題の、ロンドンのナショナル・ギャラリーのものは、

Mantegna0.JPG

 キリスト、3人の弟子、天使、ユダと群集が、少し異なる構図で描かれている。
このようにマンテーニャの同じ主題の絵を並べて見れる機会は、またとないのだそう。

   ☆東京上野の西洋美術館に、ヴァザーリとクラナッハの「ゲッセマネの祈り」がある。
   同じ主題の作品なので、画家の特徴があらわれていて比較するとおもしろい。
  

[右斜め下] マンテーニャの代表作「キリストの磔刑」 1459年 
Mantegna7.JPG

 イエスの表情があまりにリアルなので、近くで見るのが苦しい。
空の青と白い雲は、マンテーニャの特徴なようだ。
この絵は、ヴェローナの「サン・ゼーノSAN ZENO」修道院の祭壇画だったものを
ナポレオンが持ち帰ったため、今、ルーヴルにある。

 「聖セバスティアヌス」も2枚、比較できるようになっていた。
(左):1460~1470年頃、ウィーン美術史美術館蔵
(右):1480年頃 ルーヴル美術館蔵
Mantegna4.JPG  MantegnaSebas.JPG

 聖セバスティアヌスは、矢を打たれても生きていた、という聖人。
古代建築の石柱に打ちつけられたセバスティアヌス。表情の感情表現もすばらしいが、
古代建築がレリーフに至るまで緻密に立体的に描かれていることに感心した。

右のセバスティアヌスは、左に比較すると、頭上の後輪もなくなり、顔を貫く矢もなく、
より人間的になっている。

 

 早くから才能を認められていたマンテーニャは30歳の頃、マントヴァ候ゴンザーガ家の
宮廷画家として招かれ、残りの生涯をマントヴァで送った。
1490年、ゴンザーガ候フランチェスコはフェッラーラ公の娘イザベラと結婚した。
(公爵dukeのほうが侯爵marquisより位が上)
イザベラは、城内に自分好みの贅沢品を集めたアトリエ(部屋)を作らせ、
壁の絵は、それまでのリアリズムでなく、夢や空想を主題とした寓意画を命じた。
当時、名を馳せていたコレッジョ、ペルジーノらも絵のために宮廷に集められ、
イザベラお気に入りの先輩画家、マンテーニャからいろいろ学んだ。

[右斜め下] 「パルナッソス Parnasse」   1497年

 MantegnaParnasse.JPG
 
   パルナッソス山は、ギリシア神話によると、ミューズ(音楽の神)たちが住む山。
マンテーニャは、この山を舞台に、ヴィーナス、マルス、バルカン、アポロ、ミューズなどが
集い、憩うファンタジーの世界を構成した。


 「勝利の聖母子」 1495年、晩年の作品。 サン・ゼーノ修道院の祭壇画の中央の絵だった。
 [右斜め下]  膝まづく甲冑姿が、マントヴァ候フランチェスコ・ゴンザーガ。

      MantegnaMariaS.JPG

 クリスマスツリーを思わせる木々。色が美しい。オレンジやレモンの木は北イタリアの特徴。
この絵に一番、人だかりがしていた。


 [右斜め下]イザベラは、多くの画家に肖像画を依頼した。これはレオナルド・ダビンチが描いたもの。
    「Portrait d'Isabelle d'Estee」ルーヴルの所蔵品なので、これも展示されていた。
DavinchiIsabelle.JPG
 

 マントヴァに行ったら、ぜひ見たいと思っているマンテーニャの傑作「婚礼の間」の天井画。
同じ色合いの壁画もあるそうだ。天井画なので、展覧会で見ることはできない。

Mantegna8.JPG 

 

この記事へのコメント

  • TaekoLovesParis

    xml_xslさん、いつも早々にniceをありがとうございます
    2009年02月27日 23:41
  • まさみん

    taekoさんのブログに少し感化されたのか久しぶりに美術館でも行ってみたいなあ。と本当に夕方考えていました。解説付きだとより深く鑑賞できます。画家の方の想いや思想なども垣間見ることができますよね。
    2009年02月28日 00:09
  • yk2

    マンテーニャの傑作「婚礼の間」の天井画など拝見するにつけ、ここはは洋一さんのblogか?と、思わず勘違いしてしまいそう(笑)。矢が刺さりまくりの聖セバスティアヌスは何度見ても見てるこちらが痛いです(><)。

    それよりも今回はイザベッラ・デステのお話が嬉しいですね。塩野ファンの僕は思わず『ルネッサンスの女たち』を引っ張り出して来て、レオナルドがイザベッラの肖像をデッサンした場面など、早速読み返してしまいました。でも、マンテーニャのリアリズムはあんまりマントヴァ候夫人のお好みではなかったようで・・・(^^;。
    2009年02月28日 00:18
  • TaekoLovesParis

    まさみんさん、ありがとうございます。
    ルネッサンス絵画は、印象派ほどなじみがないけれど、見始めると絵の原点であることがわかってきます。
    <画家の想い>→画家の立場にたって考えると、また新たに見えてくるものもあって興味がつきないです。
    2009年02月28日 00:20
  • TaekoLovesParis

    yk2さん、そう、この天井画にヒントを得て、plotさんは円形の作品を描いていらっしゃいますね。
    セバスティアヌス、痛そうなので、写真をもう少し小さくと、思ったのですが、そうすると、古代建築のレリーフが見えなくなっちゃうし。。
    「ルネッサンスの女たち」は、読んでないのですが、この展覧会カタログを読むだけでも、イッザベラ・デステのことがおもしろかったです。時の権力者のフェラーラ公爵家から16歳で嫁いだ政略結婚。レオナルドは肖像画を不承不承、、とのことでしたが。。

    マンテーニャは、古代遺跡が趣味で、イッザベーラも骨董好きだったそう。イッザベーラはマンテーニャを気に入っていたけど、リアリズムの作風が気に入らないから、細かく指示して、「パルナッソス」のような絵を描かせたのだから、すごい人ですね。ペルジーノがイッザベラのために描いた作品「愛欲と純潔の戦い」も、これによく似ているんですよ。
    2009年02月28日 00:48
  • Luna

    素晴らしいですね。
    Taeko さんのように、絵画(芸術)に造詣が深いとまた新しい発見もありますね。
    2009年02月28日 00:49
  • TaekoLovesParis

    Lunaさん、ありがとうございます。
    絵は好きだけど、詳しくないので、ここに書いたことは、図録を読みながら、まとめたもの。ざっと見た絵が、実は、こういうふうだったんだ、と今頃、気づいています。
    2009年02月28日 00:57
  • Inatimy

    私も、あれ?plotさん?と思っちゃいました♪ 
    眠りこけてるし、捕らえに来た人が迫ってるし、矢は痛そうなんだけれど、それとは関係なく、なぜか絵を見ていて心がウキウキしてくるのは、やはり青空と白い雲だからかも・・・こちら曇り空続きで。 しかもフランドルの絵画って、曇り空ばかりだし・・・。
    2009年02月28日 07:42
  • バニラ

    辛い絵の後に観る「勝利の聖母子」には目も心も救われますぅ~
    2009年02月28日 09:30
  • katsura

    マンテーニャはわりと好きです。構図が独特ですよね。ジャックマール・アンドレ美術館の「この人を見よ」の悲しげなキリストが胸を打ちます。
    2009年02月28日 11:21
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲Inatimyさん、plotさんを思い起こすでしょ。私もplotさんの記事で、ルネッサンス画の話を、たくさん教えていただきました。だからマンテーニャにも親しみがあったのかもしれません。
    青い空とぽっかり浮かぶ白い雲、この明るさがイタリア人を陽気にしているんでしょうね、Inatimyさんのコメントを読んで気づきました。

    ▲バニラさん、ほんと、その通りですね。自分で写真を載せながら、
    これ、、ってためらいましたが、この宗教画なしにマンテーニャは語れないので、バニラさんにそうおっしゃっていただくと、ほっとします。

    ▲katsuraさん、庭に面したティールームのすてきなジャックマール・アンドレですよね。でも、その絵に覚えがなくて。。今度、見に行ってみます。友達も「あそこなら、お茶だけしにいってもいい」と言っていたので。
    2009年02月28日 15:32
  • てんとうむし

    うふふ、私も丸い天井画の青空の真ん中にはネコがジャンプしていないと物足りないような気がしてしまいます♡
    イエス様の釘跡も痛そうですが、聖セバスティアヌスの絵を見ていると脇腹のあたりが何だかチクチクしてきます^^;
    2009年02月28日 22:44
  • いっぷく

    天井画の空と雲を見ると最近描いた絵なのかと錯覚すすほど
    古く感じないのは今も空と雲は変わらないからかな。
    それに天井画に描かれている人たちの時代の手がかりになる服まで見えないからなおさら。
    2009年02月28日 23:05
  • toco

    こんばんは。
    めちゃくちゃお勉強になりました!
    2009年02月28日 23:56
  • こんばんは
    パリのルーブルの鑑賞記ですね。
    楽しく読ませていただきました。
    知らないことばかりていねに教えて頂いてありがとう。
    アンドレア・マンテーニは明るいはっきりした色使いでわかりやすい絵を描くんですね。西洋美術館の、ヴァザーリとクラナッハ「ゲッセマネの祈り」が有るんですね。いつも素通りしています。また一つ楽しみの作品が増えて行くのが楽しみです。
    「パルナッソス 」 が一番好きですね。楽しそうで。ミューズの山あるといいですね。でも、今はそんな山に住んでいるような気がします。
    「婚礼の間」の天井画はPさんの絵の構図そのものですね。
    2009年03月01日 07:32
  • りんこう

    マンテーニャは意識して鑑賞したことがありませんでした。
    ナショナル・ギャラリーでもきっと素通りしてました。
    でも、ウィーン美術史美術館の作品は何となく記憶にあります。
    矢が刺さりまくりで痛々しいので記憶に残っているのでしょう。
    顔を射抜かれてますから強烈ですね。
    2009年03月01日 10:38
  • ララアント

    どうコメントしていいのか戸惑っています。
    前半の絵は目を覆いたくなりました・・・が
    晩年の「パルナッソス」や「勝利の聖母子」で
    ホッとしています。
    2009年03月01日 11:46
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲てんちゃん、ネコがジャンプ(笑)
    plotさんは、この天井画にヒントを得て、円いテーブル画をお描きになったんですよね。

    ▲いっぷくさん、いっぷくさんのコメントで、「なるほど!」と、気づかされることが多いです。空は変わらないけど、洋服、、。この絵にたくさんいるのは天使。羽があっても服はないですね。

    ▲tocoさん、そうおっしゃっていただけて、うれしいです。

    ▲匁さん、plotさんは、天井画は日本では無理だからと、これにヒントを得た絵を丸テーブルに仕立てられたんですよ。イタリアにはモザイクのテーブルが普通にあるから、テーブルに絵があるのは不思議じゃないんだろうな、と思いました。
    上野の西洋美術館の常設展、私も行くたびに新しい発見があります。
    素通りしている絵が結構あるんです。
    2009年03月01日 23:55
  • やまがたん

    ルーブルですね、私もいけば良かったなあ
    と後悔しまくりであります
    2009年03月02日 00:02
  • TaekoLovesParis

    nice&コメントありがとうございます
    ▲りんこうさん、私もマンテーニャに関してよく知らなかったけど、plotさんのブログで記事になっていたので、少し親しみがあったんです。
    そんなに絵が好きじゃないパリの友達が、私が行くなり、「ルーヴルのマンテーニャ、行くんでしょ」と、さらりと言ったので、「マンテーニャ、知ってるの?」「だって、たくさん広告がでてるから」
    私もウィーンの美術館に行ったけど、ルーベンスとブリューゲル部屋の
    規模に驚いて、マンテーニャには気づいていませんでした。

    ▲ララアントさん、こんな悲惨な絵できっと胸を痛められたことでしょう。
    宗教画では、弓矢のささってるセバスチャンやキリストの磔刑はよくある主題なんです。上手に描けてれば描けてるほど、見るのが辛いですね。
    2009年03月02日 00:06
  • duke

    Taekoさん、こんにちは。すごいですね。勉強になります。鮮やかで、リアルで、この頃の世界に入ってしまいそうです。という感じで、宗教の世界が人々の心を打ってきたのでしょうね~。
    パルナッソスがとても楽しそうですね。個人的にはここに行きたいですね。聖母子はとても素敵です^^
    2009年03月03日 01:01
  • TaekoLovesParis

    dukeちゃん、宗教画は人を畏れさせ敬虔な気持ちにさせますね。教会へ行って、祭壇画を見るだけで懺悔効果があったのでしょうね。
    時の権力者、イザベラ・デステはすごいですね。だって、こんな硬い宗教画を描いていたマンテーニャに、「もっと夢のあるものを」と命じて、パルアンッソスを描かせるんですものね。がらっと画風も色あいも変わりましたよね。
    2009年03月03日 23:26
  • duke

    ホント、芸術と結びついた宗教は強いです・・。そのもの以上に人を感銘させる力を持つというか。(というと失礼なんですけど。) イザベラ・デステさんは、ヴィラデステの方でしょうか・・?「夢のあるもの」良いですね^^ やっぱり国が富んでてこそ、芸術が開花しますねぇ。残念な不景気。
    2009年03月04日 00:17
  • TaekoLovesParis

    dukeちゃん、ヴィラデステはコモ湖のとこですよね。同じかどうか、
    う~ん、わからないです。
    イザベラは、ヴェネツィアの南にあったフェラーラ公国の皇女で、少し北のマントヴァに嫁ぎました。才色兼備で文化芸術を愛し、政治力もあり、芸術家を集めたので当時、マントヴァにルネッサンスの花が開いたのだそうです。オペラの「リゴレット」もマントヴァが舞台。エコさんの一番のごひいき作家は塩野七生。「ルネサンスの女たち」という本もありますが、dukeちゃんへのおすすめは、漫画「チェーザレ」。4巻までがおもしろいです。5巻は×。
    2009年03月04日 00:54
  • miku

    マンテーニャ、知りませんでした
    色が印象的です
    織物みたい...とも思いました
    リゴレットのマントヴァ公のマントヴァでしたかー
    2009年03月05日 23:26
  • TaekoLovesParis

    マンテーニャ、ルネッサンスの時代だから、古いけれど、空の青さが
    印象に残ります。
    織物ね、なるほど~。特に1枚目が刺繍になりそう。
    「リゴレット」の女たらしのマントヴァ公も、繁栄の時代だからこそ、
    ですね。
    2009年03月06日 00:34
  • りゅう

    マンテーニャさん、名前は聞いたことがあるような気がします。。。
    でも、作品が全く思い浮かびません。。。(/ー\*) イヤン♪
    最後の作品、自分が井戸に落ちたかのような錯覚に・・・(^_^;)
    とっても罪深~い私に、上の方々はロープを投げ入れてくれるのかな。
    それとも石を・・・(ーーA;; アセアセ
    2009年03月06日 22:06
  • TaekoLovesParis

    りゅうさん、私も前は作品が浮かばなかったけど、So-netブログの
    plotさんが、マンテーニャ記事を書いていらしたので、それで、りゅうさんいわくの、井戸に落ちたような作品>を見たんです。この空の青さと仰角的な構図、特徴があるから、頭にやきつきました。りゅうさんもきっと、井戸に落ちたって、覚えちゃうと思います。
    大丈夫、ロープがするするっと降りてきますよ。
    2009年03月08日 00:54

この記事へのトラックバック

ダ・ヴィンチの白鳥たち
Excerpt: レオナルド・ダ・ヴィンチ(模写)《レダ》(ボルゲーゼ美術館蔵) 「 その絵をのぞきこみ、ベアトリーチェははっとすくんだ。それは実際のレダの彫刻よりもはるかに官能的だった。レオナルドのレダは肉付きがよ..
Weblog: 隆(りゅう)のスケジュール?
Tracked: 2010-10-18 23:18