オランジュリー美術館の入り口で、このポスターを見て、「ラトゥールの絵!」
2005年春、上野の西洋美術館で開催された「ジョルジュ・ド・ラトゥール展」の
ポスターがコレだった。
ラ・トゥールは、光の使い方の上手な画家。「光と闇の画家」と呼ばれている。
↓は、「大工のヨセフと息子」。
ろうそくの光で照らされているものだけが見えますね。
左は、上野での看板の絵、「いかさま師」の部分。
平坦な白い顔、女いかさま師の目つきが印象的。
改装されたオランジュリーの「記念企画展覧会」は、
Orangerie,1934: LES ”PEINTRES DE LA REALITE”
「オランジュリー、1934: 現実の画家たち」、1934年にオランジュリーで開催された
展覧会の再現。
17世紀のフランスの画家たちに焦点を当てた1934年のこの企画展は、2つの大戦
の間で、評判をよび、大きな反響があった。
ジョルジュ・ド・ラトゥールの絵が初めて紹介され、展覧会の花形だった。
展示された絵は、ラトゥールの他に、17世紀を代表するル・ナン兄弟、ニコラ・プッサン、
ガスパール・デュゲ、ヴァランタンなど。当時のカタログの復刻版を売っていたが、
45ユーロ(7200円)だったので、買わなかった。日本と違って見本は置いてない。
↓ これは1934年の展覧会の展示。
今回の展示では、ラ・トゥール作品の壁が赤。そして照明を当てているので、
上の「大工のヨセフと息子」の絵が、もっと赤みを帯びて見え、明暗がくっきりと、
実に美しい!
こんなにたくさんのラ・トゥール作品! よく見ると「模写」と書いてあった。
本物は、ルーブルにあるはず。
17世紀はバロックからリアリズムへの時代。
ル・ナン兄弟は、農民の生活を描いた。3兄弟だったが、誰がどれを描いたか、
はっきりしていないため、ル・ナン兄弟と総称でよばれている。
ガスパール・デュゲは、ニコラ・プッサンの義弟。
↓プッサンと似た画風で風景画が多く、滝の絵や、チボリの景色があった。
17世紀ということで、戦争画や肖像画も多かった。
1934年の展覧会では、17世紀の画家だけでなく、「現代の画家」というコーナーで、
モーリス・ドニ、ピカソ、レジェ、マグリッド、バルテュス、エリオンらの15点が紹介された。
ポスター(一番上の写真)の左端に、マグリッドの作品がとりあげられているのは、
そのためだろう。ラ・トゥールの絵と同じく、ろうそくの光が主題のマグリッド作品を
配置しているのは、うまい!
絵の評価は、年代と共に変わることがある。
1934年の展覧会が17世紀という過去に焦点を当て、ラ・トゥールを再発見したように、
2007年の展覧会で、1934年をふりかえることにより、過去70年で絵の評価がどのように
変わったのかを考えることができる。 オランジュリー美術館は過去と現在をつなぐ架け橋、
と帰結していて、ユニークな企画だと思った。
3月5日まで開催中。
この記事へのコメント
バニラ
ろうそくの柔らかい光の具合と思いの外の明るさが
とっても印象的な「大工のヨセフと息子」の絵を飾った壁が赤なのですか?
赤といってもきっと濃い、深めの赤なのかなぁと想像しています。
闇をきわだたせるためなのでしょうかね。でもやっぱり赤い壁って大胆。
雛鳥
西洋美術館での展覧会は、私も行きました。
このとき初めてラトゥールを見たのですが、絵のなかの静けさと荘厳さに、
すっかり魅せられてしまいました…。
ポスターに使用されている作品が、いちばん好きです。
ガスパール・デュゲという名前は初めて目にしましたが、
この作風はすごく好きです。
今にも滝の音が聞こえてきそうです…。
いっぷく
作品数は少ないのに絵はアメリカなどにも渡ってしまい、フランス国会で国外流失が議論になったこともあるほど重要な画家の割には不明な部分の多い画家。実は私は大好きでこのところ彼に関する本を2冊ほど読んだところでした。そして部分模写も試みていますが難しいです。
いかさま師も2枚本物はありますが持っているトランプの絵が違ったり
ジュエリーや服に違いもあります。
たしか彼の残した絵で現存するのは40枚と少し程度。
まだまだ真贋の研究が続いていますね。
coco030705
「大工のヨセフと息子」素晴らしい絵ですね。このローソクの光で浮かびあがる光景が美しいです。昔は電気もなかったから、こういう風に見えていたのでしょうね。それと、ガスパール・デュゲの風景画も好きです。こういう風景もなくなりつつあるのでしょうか。
ヨーロッパはまだ昔の風景が残っていますが、日本はますます昔の風景がなくなっていくので、なんだか悲しいですね。
いい絵を見せていただいて、ありがとうございました。
yk2
#いっぷくさんの学究的コメントの後がこんなで、なんだかなさけないのですが・・・(苦笑)
pistacci
TaekoLovesParis
ダヴィンチ・コードの映画をご覧になって、ラトゥールの「マグダラのマリア」の絵を見せてくださった日、6月17日の記事ですよ。
noriko
この「いかさま師」さん、目をはなしたら、こっちを見そうですもんね。
TaekoLovesParis
▲バニラさんへ
そう、その通り。えんじ色がかった赤でした。
パリにいて思うことは、ロココ調のインテリアは赤。他でも赤が使われていることが多いです。赤は豊かに見える気がします。石の色、グレーに映え
ますしね。日本は木の茶色が基本だから、赤とはあまり相性がよくない
ですよね。
▲雛鳥さんへ
私も、唐突に現れたラトゥールの絵のポスターにびっくりして、「どうして
ここに?」と思ったら、企画展だったんですよ。だって、モネの睡蓮や
印象派の絵を見る、って思い込んで行ったわけだから、毛色が違う
ラトゥールの登場に違和感。でも、とってもいい企画展でした。
分析力に長けてる雛鳥さんは、気に入ると思います。
miku
ラトゥールの名前、覚えておかなくちゃ。
かよりん
ろうそくの光というのがなんともいえず神秘的です。
さすがは「光と闇の画家」ですね。
ガスパール・デュゲは初めて知りました。
滝の絵かなり好みです。
TaekoLovesParis
ラトゥールがお好きで本をお読みになったところだったのですか。
模写がそんなにたくさんあるんですか!
日本に来たのは、ルーブルから借りたホンモノだったはず、、と私も
2005年の展覧会のカタログを読んでみました。
アメリカへの絵の流出、いかさま師の2枚の違い、贋作のことなどが
書いてありました。
さらに興味深く読んだのは、
<ラ・トゥールはキュビズムや幾何学的抽象表現を知った人々、さらにシュルレアリズムを知った人々、そしておそらく写真を知った人々にとって偉大な画家なのではないだろうか。>
→ラ・トゥールは生きている時代に不遇ではなかったのに、忘れられ、
1934年まで注目されずにいた理由はコレでしょうか?
さらに、ラ・トゥールとイタリア美術の関係も、謎解きのようにいろいろな
例があげられていて、奥深いですね。
いっぷくさんがこのコメントを書いてくださったから、気づいて、読んでなかったカタログを読みました。ありがとうございます。
シェリー
どこにワインが描かれてるのだろう!?と探してしまいました(><)
「光と闇の画家」ラトゥールさん。覚えました☆
なんだかどれも写真のようにも見える絵で驚きました。
naonao
匁
3月4日までパリ オランジュリー美術館で開催されているんですか?!
今、忙しくて行けません。???
もっとも、忙しくなくても行けないですが!!
1934年の展覧会ですか?日本が太平洋戦争へまっしぐらの時。
まだまだ気がつかない「闇」の中でしたね。
そんな頃の展覧会の再現ですか?
絵画鑑賞も奥が深いですね。
りゅう
ますますオランジュリーに行きたくなりました(^_^)/
先日、オルセー展後に西美の常設(無料開館日)で《聖トマス》を観てきました。
私もちょうど05年の図録を開いているところですヾ( ̄ー ̄)ゞ
nicolas
この、息子の手の透け具合がすごく神秘的で、大好きです。
ポスターになってる絵は知りませんでした。
まだまだ、じっくり深く入るのは、浅いところにいます。
ここで勉強させてくださいね~
ムーミン
いいですね。
奥が深くって、とても勉強になります。
berry
ポスターは案外モダンなモノより陰影ある絵の方が人を惹きつけるように思いました。
「大工のヨセフと息子」も、光と闇が美しすぎ!
ラトゥール、この画家を初めて知りました。(勉強不足を認識)
「光と闇の画家」素晴らしいです。
katsura
西洋美術館の展示、よかった~。
人生の幸福を噛みしめた展示でした。
Nicoli♪
ありがとう。
TaekoLovesParis
▲シェリーさんへ
<どこにワインが、、>
→シェリーさんならではのおまちがいで、大笑いしちゃいました。
私は逆に、まだワインにくわしくない時、レストランでワインリストを見せられて、どれにしようかと迷い、画家と同じ名前のコレ、と頼んだら、白だったけど、実に甘美で、塔の絵のラ・トゥールを覚えました。
▲てんとうむしさんへ
<目をはなしたら、こっちを見そうですもんね。>
→そう、こわい目つきですよね(笑)
ノーマン・ロックウェル、ご存知でしたか!フィラデルフィアの出身なので、
そこに美術館があります。ロックウェルの絵は伊勢丹のクリスマス袋に
使われていますね。ロックウェルの絵がついているお財布を今、使ってます。
▲りゅうさんへ
<9割の確率で舌を噛みます>
→キーボード入力も面倒ですよね。ったく(笑)
05年の展覧会は、西洋美術館が「聖トマス」を買ったから、来てくれたん
でしたっけ?私も今度行ったら、見なくちゃ、と思っていました。
今度の西洋美の展覧会は、地味なイタリア版画だから、きっと常設を
見る余力があるのでは、と思ってます。
トラックバックありがとうございます。
▲mikuさんへ
写真にも、こういう陰影って、応用できるものですか?
mikuさん、夕焼けとか上手に撮っていらっしゃるから。
▲pistacciさんへ
そう、おしゃっていただけてうれしいです。
▲かよりんへ
はい、ろうそくの光が神秘的な演出効果は、「オペラ座の怪人」で
実証済みですものね。
TaekoLovesParis
▲Cocoさんへ
<昔は電気もなかったから、こういう風に見えていたのでしょうね。>
→ゆらゆらするろうそくの光で、数分ごとに違って見えたりもするのでしょうね。実際に見えたより、誇張して陰影をつけることにより芸術作品に仕上げているのだと思います。
昔の景色、風景画ってのんびりして落ち着きます。(自分が年とってきた
から?)
▲naonaoさんへ
はじめまして!
naonaoさんのオルセー展の記事も読ませていただきました。
ルーブルやメトにもいらしているんですね。同じ絵でも違う場所で見ると
また別の感動がありますよね。
▲kitaさんへ
<もっとも、忙しくなくても行けないですが!!>
→いつも楽しいコメントで。。。(笑)
パリの展覧会で感心するのは、企画力です。それも約70年も前の
展覧会の再現。1934年がどんな年だったのかも、別室で映像を
見せていました。戦争の影がしのびよってくる時代なようでした。
TaekoLovesParis
▲にこちゃんへ
<手の透け具合がすごく神秘的>
→ほんと、そうですね。お料理でいつも手を使っていらっしゃるにこちゃん
だから、手に気がつくんですね。
▲ムーミンさんへ
秋田の冬祭りもそうだけど、暗い中での火は幻想的ですよね。
▲berryさんへ
ラ・トゥールの作品を好きになってくださったようで、うれしいです。
▲katsuraさんへ
<人生の幸福を噛みしめた展示>
さすが、、、表現が違います。
▲Nicoliさんへ
覚えていただけてよかったです。
私は小人たちの名前、なかなか覚えられないんだけど。。。
TaekoLovesParis
ナイスをありがとうございました。
戦後、ウィーンの街を復興させるために、この頃の絵を参考にしたらしいです。
TaekoLovesParis
▲Minovskyさんへ
<17世紀の絵、個人的には大好きです。>
→落ち着いた高尚なご趣味のMinovskyさんのというイメージに、モダンな近代絵画はあいませんね。
写真にない表現も絵ならできるということがあって、ウィーンの街の復興に
使われたのかもしれませんね。
▲Taddyさんへ
「この絵を見せるためにはこんな部屋で」という趣向がいい、と思います。
絵自体に興味なくても、その考えは使えそうでしょ?
noriko
Taekoさんもロックウェルお好きですか?
何を隠そう、私のこの顔、ロックウェルの"Day in the Life of a Little Girl"の一部です^^
TaekoLovesParis
っていうお茶目な感じ、なぁんか気になっていたんだけど、ロックウェル
でしたか。。てんとうむしさん、小さい頃、こんな感じだった?(笑
ロックウェル美術館で、第二次大戦中の雑誌の表紙がいくつも展示して
あったんだけど、感心したのは、戦時中、女の人まで工場に動員されて
力仕事している場面も、、ユーモアたっぷりに描いているの。「私って
こんな強いのよ」って自慢してるかのようにね。どの絵にもユーモアが
ある点がすごいなぁって思いました。
luna
ラトゥール知りませんでした。覚えておきます(^^)
暗いトーンの部分にもちゃんと光があって、影があって、
じっくり見入ってしまいますね。見えない部分にはなにがあるんだろう。
「絵の評価は、年代と共に変わることがある」というのが
興味深いです。いまとはぜんぜん異なる価値観で、絵が見られるようになるのかもしれないな、と思いました。絵を見る、という行為じたいも変わっていきそうですよね。
美術館に行く、というのは変わらないでほしいなあ、と思いつつ。
TaekoLovesParis
何かありそうで神秘的ですね。そしてろうそくの光はじっと見ていると、
イエス・キリストの昔がぐんぐん近づいてくるような気がします。
私にとって美術館は、いつも何か発見があります。
若くて吸収力がたーーくさんあるLunaさんは、もっともっと発見があること
でしょう。
aia
TaekoLovesParis
も時々、おもしろいものがあります。モネとターナー、コンスタブルの比較、
とか、ゴッホと支持者のお医者ガシェとの交流に光をあてたものとか、
テーマがはっきりしていて、興味深かったです。キューレータの腕でしょうか。